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空は俺の説明を熱心に聞き、素直に問題を解く。以前の空とは考えられない授業態度だ。俺はその様子に安堵する。スラスラとシャーペンを走らせながら、空が口を開いた。
「真ちゃんはわかりやすいね。そんなに礼が気になる?」
「は?そんなわけないだろ」
「心ここにあらずって感じだけど」
「なに生意気言ってるんだ。ただ……夫に会うだけなのに、礼さんが緊張してるから気になっただけだよ」
「パパは愛人と暮らしてるんだよ。そのパパが数ヶ月振りに帰るんだ。緊張するに……決まってるよ」
「それはそうだけど。愛人と別れて謝罪に戻ったってことも考えられるだろう」
「そんなことあるはずない。パパはあたしが邪魔なんだ。あたしも……パパは嫌い」
「空……?」
「パパなんか、一生帰らなくていい。あたしは一人でも生きていける」
空の強い口調に、心の闇の深さを垣間見た気がした。
俺は空の言うとおり、心ここにあらずだ。
ずっとソワソワして落ち着かない。
静かな住宅街で車のエンジン音がした。
門が開く音が外から聞こえた。
空の父親だ……。
帰宅したんだ……。
車のエンジン音が聞こえただけで、空は一瞬ビクンとした。空の顔が恐怖に歪み、その瞳が怯えている。
ドアが開く音がして、階下から二人の声が微かに聞こえた。何を喋っているのかはわからないけれど、威圧的な男性の低い声が、一階から響いた。
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