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「あたし達は田園調布にある真衣の家に行った。家の前では葬儀の準備をしていて、人が出入りしていた。チャイムを鳴らすと、家の中から真衣のお母さんが出てきた。泣き腫らした目、黒い喪服姿に、あたしはこれが現実なんだと……愕然とした。真衣のお母さんはあたし達を見て玄関で泣き崩れたんだ」
「空……。それは辛かっただろう」
「あたし達は真衣のお母さんに『真衣に会わせて欲しい』と頼み込んだ。二間続きの和室に入ると、祭壇と棺の前に白髪混じりの年配の男性が座っていた。男性は放心状態で黙って棺の中の真衣を見つめていた。その男性が真衣の義父だった」
空はキュッと唇を噛み締めた。
「棺の中の真衣は、まるで眠っているみたいだった……。真衣の頭部には白い包帯が巻かれていた。あたし達は棺の中の真衣に話し掛けた。でも棺の中の真衣は……手も頬も冷たくて……」
空は強く握り締めた拳で、何度となく自分の脚を殴る。
「春希が『お前が、真衣を殺したんだ!お前が!真衣を!』そう叫びながら真衣の父親に殴りかかった。あたしと鈴は泣きながら、真衣の父親を殴る春希を見ていた。その時、数人の警察官が部屋に入って来た。警察官は『娘さんの死因について、司法解剖をさせて下さい。実は署に日常的な虐待の疑いがあると匿名の通報がありました。これは任意の事情聴取ですが、ご同行願います』って。真衣の父親は、警察官に両脇を抱えられ部屋から出て行った」
自分の脚を殴り続ける空の手を、俺はそっと握り締めた。
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