【5】ガラスの心

45

 ―十月―


 夕方、俺の携帯電話に礼さんから連絡があった。


 礼さんから電話が掛かってきたのは、初めてのことだった。


「はい。西本です」


『ごめんなさい。真君』


 礼さんは最近俺のことを『真君』と呼ぶようになった。それには理由があり、俺が空にダーツで負け、『このまま家庭教師を続けたければ、お互い名前で呼び合うこと』と空に命令されたことがきっかけだった。


 そうとはいえ電話越しに名前を呼ばれ、何故かドキッとした。年齢は近いが、『西本さん』から一気に『真君』になり若干戸惑っている。


「どうかされましたか?今日はバイトの日ではないですよね?」


『うん、わかってる。ごめんなさい。実はお願いがあるの。今日、家に来てもらえないかしら』


 礼さんの声はいつになく慌てた様子だった。


「何か変わったことでも?」


『空の様子が変なのよ。部屋から一歩も出て来ないの』


「いつもの気まぐれじゃないですか?思春期にはよくあることです」


『さっき学校の先生から電話があったのよ。空の友達が亡くなったらしいの』


「亡くなった?病死ですか?それとも事故死?」


『死因は先生も仰らなくて、よくわからないの』


「それで空さんは?」


『先生が仰有るには、空はそのお嬢さんと親しくしていたらしくて。私には何も話してくれないから心配なの……』


「わかりました。今からすぐに行きます」


 俺は電話を切ると、バイクの鍵を掴んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る