【5】ガラスの心
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―十月―
夕方、俺の携帯電話に礼さんから連絡があった。
礼さんから電話が掛かってきたのは、初めてのことだった。
「はい。西本です」
『ごめんなさい。真君』
礼さんは最近俺のことを『真君』と呼ぶようになった。それには理由があり、俺が空にダーツで負け、『このまま家庭教師を続けたければ、お互い名前で呼び合うこと』と空に命令されたことがきっかけだった。
そうとはいえ電話越しに名前を呼ばれ、何故かドキッとした。年齢は近いが、『西本さん』から一気に『真君』になり若干戸惑っている。
「どうかされましたか?今日はバイトの日ではないですよね?」
『うん、わかってる。ごめんなさい。実はお願いがあるの。今日、家に来てもらえないかしら』
礼さんの声はいつになく慌てた様子だった。
「何か変わったことでも?」
『空の様子が変なのよ。部屋から一歩も出て来ないの』
「いつもの気まぐれじゃないですか?思春期にはよくあることです」
『さっき学校の先生から電話があったのよ。空の友達が亡くなったらしいの』
「亡くなった?病死ですか?それとも事故死?」
『死因は先生も仰らなくて、よくわからないの』
「それで空さんは?」
『先生が仰有るには、空はそのお嬢さんと親しくしていたらしくて。私には何も話してくれないから心配なの……』
「わかりました。今からすぐに行きます」
俺は電話を切ると、バイクの鍵を掴んだ。
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