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「じゃあ、これで休憩も終わりだ。数学をもう少しやろう」
俺は問題集の応用問題を開き、空に差し出す。空は文句を言いながらも、その問題をスラスラと解く。シャーペンが問題集の上で躍っているように動き、見ていて気持ちがいい。
空に家庭教師をするなら、俺の方がもっと勉強しないといけないな。
午後八時になり、空はさっさと問題集や教科書を片づけた。俺も帰り仕度を始める。
「あのさ、もう十分でしょう。また来る気?」
「来るけど?文句ある?」
「二時間おとなしく付き合ってあげたんだよ。もう気がすんだでしょ」
「残念ながら、まだ不十分だよ。いや俺が不十分かな。君の学力に見合った問題集や参考書を用意しなおす」
「まだ懲りないの?何冊持ってきても結果は同じだよ」
空は憎まれ口を叩き、俺を睨み付けた。確かに、こんなに可愛げのない生徒はお断りだ。
でも、空が根っからの
「じゃあな、明後日はもっと難しいものを持ってくるから。さよなら」
空は俺の言葉を無視して、再びマニキュアを塗り始めた。空を部屋に残し、俺は一人で階段を降りた。
こんなに広くて立派な家に、たった二人で住んでいて寂しくないのかな?
俺はリビングにいた社長に声を掛ける。
「終わりました」
「西本さん、お疲れ様でした。それで、どう?明後日も来れそう?一日でギブアップする先生も今までいたから、正直に言っていいのよ」
社長は俺を見つめ苦笑した。
「もちろん来ますよ。半年契約なので。実は俺の弟も反抗期はあんな感じでしたから」
「そうなの?あの年頃の子供はよくわからなくて。じゃあ、引き続きお願い出来るかしら?」
メイクをしていない素顔の社長は、優しい眼差しをしていている。社長を見ていたら、ふと空の言葉を思い出した。
『パパね、愛人がいるの』
――愛人……。
『パパの再婚は誤算だった』
MILKYの社長である礼さんよりも、飾らない素顔の方が俺には数倍魅力的に見えるけどな。
礼さんの心の中はどうなんだろう。夫の連れ子で反抗的な空と二人で暮らしていて幸せなのかな?
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