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冷たい眼差ししか見たことのない社長が、妙に可愛らしく見える。近寄りがたい鉄仮面がとれ、飾らない素顔に親近感を持った。
「真ちゃん。あれ?礼に見とれてんの?」
空に突っ込まれ、俺は慌てて視線を逸らした。
「空、真面目に勉強してる?ダメだよ。西本先生を困らせたら」
「西本先生?誰が先生?真ちゃんで十分だよ。ね、真ちゃん。あたしが英語の先生してあげる。本宮先生って、言ってごらん」
子供のくせに、完全に俺をからかってる。
俺をバカにし、俺を怒らせる作戦だな。
その手には乗らないよ。
「空、いい加減にしなさい。ごめんなさいね、西本さん。こんな娘ですが、空と上手くやれそう?」
『上手くやれるはずないだろう』と言いたい所だが、俺はその言葉を喉元に押し込む。
「社長、お嬢さんの学力はかなりのハイレベルですよ。心配しなくても大丈夫です」
「そうなの?一学期の成績表最悪だったのよ。勉強もしてる様子はないし。これで本当に大丈夫なの?」
空はブスッとむくれ、ボソッと言葉を吐き捨てた。
「……してるよ」
「そうだよな。英語の発音なんて完璧ですよ。次に来る時は、もう少しハイレベルな問題集を持って来ます。ですが、お嬢さんに勉強を教える必要はないかも」
「噓、勉強が遅れてるわけじゃないのね?」
「はっきりいいます。家庭教師が必要な学力ではないと思います。ですが、このままだと高校進学の内部試験は危ういかもしれません」
社長は俺の言葉の意図が理解できず首を捻った。
空はルミナ聖心女学院大学附属中学校で、学力はきっとトップクラスだろう。だけど、わざと悪い成績を取るならば、高校進学の内部試験も厳しい。
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