31
俺はそんな空に、勉強よりも人としてもっと大切なことを教えたくなった。
俺は立派な人間じゃない。
一度は社会人になったくせに、リタイアして大学からやり直した。
気がつけばもう三十歳だ。
中途半端な人間だけど、親からも兄弟からも、そして友人や恋人の奈央からも、沢山の愛情をもらっている。
人も羨むような豪邸に住み、何不自由ない暮らしをしている空に、親を信頼し自分をもっと大切にしろと教えてやりたかった。
空の心の闇の深さを知らない俺は、単純にそう思った。
部屋をノックする音がして、ゆっくりとドアが開いた。
「勉強進んでる?」
社長が珈琲とクッキーを乗せたトレーを持ち室内に入って来た。
さっきと同じ容姿、前髪をピンでとめたままだ。MILKYで見ていた近寄りがたい社長と、目の前にいる社長のギャップに、俺の視線は自然と社長に向く。
社長は俺の視線に気付き、手でピンに触れた。
「あ、これ?気にしないで。前髪をこうしてとめてないと、何だか鬱陶しくて落ち着かないのよ」
社長はクスクスと声を上げて笑った。
社長の笑った顔を、俺は初めて見た。二年間MILKYでバイトをしたが、いつも凛としていて、人を近付けない冷たいオーラを放っていたから、社長は冷血仕事人間だと、ずっと思っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます