21

 広々とした玄関ホールを抜け、俺は声のする方向に進む。室内に一歩足を踏み入れると、その迫力に息をのんだ。


 広いリビングは大理石の床。輸入家具でコーディネートされたゴージャスなインテリアは異国の雰囲気を醸し出す。


 天井からはシャンデリアがぶら下がり。その豪華絢爛な室内に、俺は一歩も足を踏み入れることができない。


 金があるところには、あるんだな。

 まるで西洋のお城だ。


「何突っ立ってんの。ていうか、何で勝手に入ってんだよ。住居侵入罪で警察に通報するからね」


 さっきの女性が白いソファーに座り、長い脚を組み俺を睨み付けた。


「ねぇ、あんたって貧乏なの?こんな家が珍しいんだ」


「……いえ、あまりにも一般家庭とは異なっていたため……」


 度肝を抜かれた俺は年下の女性相手に、しどろもどろ。


「バカみたいに口開いてるし。『こんなの見たことない』って顔してる。あんたさ、超貧乏なんでしょう?これだから凡人の家庭教師は嫌なんだよ」


 彼女の美貌がぶっ飛ぶくらいの憎まれ口。張り倒したくなるくらいの生意気女。あの社長がよく黙ってるな。やっぱり義理ともなると、手も足も出せないのかな。


「西本さん、お待たせしてごめんなさい」


 社長の声に振り返ると、そこには……。


 凛としたスーツ姿にキリッとしたメイクではなく、黒いスウェットの上下を着用し、前髪をピンで止めたおでこ丸出しのスッピン女性だった。


 ――ていうか、あなたは誰ですか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る