20

「あんた誰?」


 綺麗な顔からは想像出来ないほど、冷たい口調で乱暴な言葉が飛び出す。


「はじめまして、家庭教師の西本です。お姉さんですか?中学生の妹さんはご在宅ですか?それと……社長……。いや、お母様はいらっしゃいますか?」


 彼女は俺をジーッと見つめた。その大きな瞳と艶々した唇にドギマギしていると、彼女は顔を歪め言葉を吐き捨てた。


「家庭教師?……うざっ」


 は?……うざっ!?


「聞いてないよ、帰れ!」


 彼女はくるりと背を向け室内に入る。俺は玄関先に放置されたまま、彼女の美しい外見とヤンキーみたいな口調のギャップに唖然としたまま、彼女の後ろ姿を見つめた。


「あら、ごめんなさい。西本さん、上がっていいわよ」


 室内から、社長の声がした。

 MILKYで接見した時より、声は明るい感じがした。


「では、お邪魔します」


 俺はキョロキョロと周囲を見渡し、玄関フロアに置かれた白いスリッパを履く。


 正面の壁は煉瓦造りで、数千万円はするであろう有名画家の絵画が、セレブを主張するようにドカッと飾られていた。


 そしてその横には、一メートルはあるであろう有田焼の壺に、豪華な花が生けてあった。


 天井にはシャンデリア。

 まるで高級ホテルのエントランスだな。


 家政婦さんがいてもおかしくない豪邸なのに、室内はシーンと静まり返り、家族以外が住んでいる様子は感じられなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る