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 あの社長のことだ。カジュアルな服装で行ったら、あとで嫌味を言われかねない。


 俺はグレーのスーツに着替える。せめてネクタイくらいは明るい色をと、ブルーに赤のストライプが入ったネクタイを結ぶ。


「真、何か軽く食べる?焼きそばか何か作ろうか?」


「さっき大学で軽く食べたからいい。遅刻するとまずいからもう行くよ」


「わかった。私もコンビニのバイトがあるから。戻ったら夕飯作って待ってるね。行ってらっしゃい」


「行ってきます」


 玄関で奈央に軽くキスをして、アパートを出た。鞄の中には、昨日本屋で購入した参考書や問題集。もちろん領収書ももらっている。ズッシリと重い鞄を背中に背負いバイクに跨がる。


 お金持ちのお嬢様、どんな感じなんだろう。頭の中で、可愛いらしい女子を想像して、緊張している気持ちを落ち着かせた。


 アパートから品川に向けてバイクを走らせる。社長にもらった地図を頼りに、社長の自宅を探した。


 高層マンションが建ち並ぶ街並みを抜け、静かな住宅街に入る。白いブロック塀にぐるりと囲まれた白い豪邸を発見した。車庫には外車が数台並んでいる。


 建物の外観は白亜の洋館。そこだけ見ていると、外国に迷い込んだような錯覚にとらわれる。


 車庫には社長の赤いフェラーリが停まっていた。


 社長が今、この自宅にいると思うと急に緊張してきた。息苦しさから、少しだけネクタイを緩めた。

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