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 ◇


「ただいま、奈央」


「おかえり、真。今日は早かったね」


 俺は奈央を抱きしめ軽くキスをする。『行ってきます』と『ただいま』のキス。


 このキスをしないと、忘れ物をしたみたいに落ち着かない。


「バイトどうだった?平日は夕方からだけど、日曜日は長時間だから疲れたでしょう。あとで脚マッサージしてあげるね」


 奈央は料理は苦手だが、マッサージは上手い。

 年下だが尽くすタイプの女性で、MILKYの社長とは大違いだ。


「アルバイトなんだけど……。実は解雇された」


「え?解雇されたの!?もしかして遅刻したから?」


「今月、バイクの故障や体調不良で遅刻したし、さすがに三度目の遅刻は許してくれなかったよ。それはそうだよね。大人として恥ずかしいよ」


「ごめんね。私がちゃんと起こしていれば、真が解雇されることもなかったのに。二年間働いたのに、社長さん厳しいな」


「奈央のせいじゃないよ。社長は氷みたいに冷たい女だから。サボテンみたいに体から刺が生えてるんだ」


「うふふ、体から棘?ハリネズミみたいだね」


「ハリネズミの方が愛嬌があって可愛いよ。奈央、今夜は外食しない?今日までの給与貰ったから、ちょっとリッチだよ」


「もう夕飯の準備してるから作るよ。明日食べに行こう。それに次のバイトが決まるまで節約しないとね。私もコンビニのバイト時間増やすよ」


 経済的で家庭的。

 ホッカイロみたいにあったかい。

 奈央のいいところ。


「次のバイトならもう決まってるんだ。明日から家庭教師するから。曜日は月水金、午後六時から午後八時まで。MILKYより時間は余裕だよ」


「真が家庭教師?四月から進学塾の講師だし、予行演習になるね」


「そうなんだ。社長の娘の家庭教師だよ。有名私立中学校の三年生らしい」


「真があの社長令嬢の家庭教師?大丈夫なの?また解雇されたりしない?」


「相手は世間知らずのお嬢様だよ。楽勝だよ。家庭教師は月十二回なのに、MILKYと同じ月給分の月謝くれるらしい。わりのいいバイトだろ?」


「それ、条件良すぎてちょっと怖くない?」

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