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一階のフロアに降りると、清水がニヤリと口角を引き上げ声をかけてきた。
「お説教はどうだった?」
「清水さん、大変お世話になりました。本日をもって退職します」
「まじで?あの社長、解雇するの早いからね。解雇通知書と同時に契約解除、あり得ないから。でも西本さんの場合、二年間解雇されなかっただけ感謝しなさい。奇跡としかいいようがないわ」
俺よりも年下のくせに、この態度は何だ。
正社員っていうだけで偉いのか?
MILKYが若者に大人気なのは、社長の手腕だ。清水の手柄じゃない。
「清水さんも、気をつけて下さい。いつ解雇通知書を目の前に出されるかわかりませんよ」
「やだ。西本さんみたいなヘマはしません。こう見えても、社長から信頼を得ているんだから」
ヘマをして悪かったな。
確かに、今日は最悪な一日だ。
それでも最後の勤めとしての責任は果たす。
俺はいつも以上に、仕事をこなし接客をした。
午後五時半、社長の退社時間になった。コツコツとヒールの音がし、社長が姿を現す。
「西本さん、ちょっといいかしら」
「はい」
レジカウンターの裏に回ると、社長は俺に茶封筒を差し出した。
「これ、今日までの給与よ。もう帰っていいわ。送別会はしないので。お疲れ様でした」
午後九時まで働かされると思っていたが、交代のアルバイトが出社し、いつもより早く解放される。
「ありがとうございます。大変お世話になりました」
社長はニコリともせず、一階フロアに戻り清水に売れ筋商品の入荷の指示をし、足早に店を出た。
「皆さんお先に失礼します。清水さんあとは宜しくね」
「はい。お任せ下さい」
二年間働いたのに送別会もないのか。
冷たい女だな。
美人を鼻にかけているのか?
全身から、尖った刺が出てるみたいで近付きたくない。
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