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「じゃあ、これが自宅の地図ね。バイクで来るなら交通費も支払うわ。アパートからのキロ数を計って来て下さい。とりあえず、明日からでもいい?そうね、曜日は月、水、金でどうかしら」
一方的に条件を告げ、社長はパチパチとパソコンを打つ。
「はい、わかりました。明日の午後六時に伺えばいいですね」
「そうね。参考書やテキスト代は支払うから、そちらで用意してちょうだい」
「はい」
「とにかく半年は続けて欲しいの。辞めないことが第一条件よ」
「……はい」
半年は続けろ?辞めるな?
たかが中学三年生の女子だろう。大袈裟だよ。
来年の四月からは、進学塾の講師だ。
家庭教師なんて、チョロいに決まってる。
社長はパソコンで家庭教師の雇用契約書を作成し、プリントアウトし俺の目の前に差し出した。口約束では雇わないということだ。
この手際の良さ、流石社長だよ。
俺は雇用契約書を一読し、サインをする。印鑑は持ち合わせていなかったため、拇印を押した。
「ありがとう。これで契約成立ね」
社長は表情ひとつ変えず、デスクの抽斗に雇用契約書を納める。
俺は一礼して、社長室を出た。
その時の俺は、家庭教師を引き受けたことを安易に考えていた。わりのいいバイト、単純にそう思っていたんだ。
MILKY代表取締役社長、夫はセレブな実業家。俺の生徒はお嬢様。社長の私生活にも多少の興味があったし、有名私立中学に通うお嬢様にも興味があった。
世間知らずのお嬢様に、ただ勉強を教えればいいとそう思っていたんだ。
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