「はぁ……」


 おっとりしたタイプって、それって褒められてるのか、貶されているのかわらないよ。


 社長のことだ。

 百パーセント貶されているんだよな。


「西本さん、今日はいつも通り働いてくれる?交代のアルバイトが来るまででいいの。家庭教師は週三日一日二時間、月謝はここの一ヶ月分の月給と同額くらいでどう?」


 週三日で一日たったの二時間。一ヶ月家庭教師をして月謝は現在貰っているMILKYの月給とほぼ同じ?勤務時間は少ないのに、かなり割りのいい話だ。


「期間は三月末まで。附属高校進学の内部試験もそれまでには終わってるし、娘を無事に進学させてくれればそれでいいわ。時間は……そうね、午後六時から午後八時でどう?少しスタートが早いかしら?」


 社長は俺の返事も聞かないで、一方的に話を進めている。いきなり家庭教師の話をされて、わけがわからず混乱している俺は即答ができない。


「それで、どうなの?やる気はあるの?」


 かなりの命令口調で、社長は俺に返答を迫った。どうやら俺には拒否権はなさそうだ。


「……わかりました。お引き受けします」


 MILKYを解雇されたわけだし、週三日、月十二回でここと同じ月収になるなら、決して悪い話ではない。寧ろ、MILKYでバイトをするよりも楽勝だ。


 三月末ならば期間もたった半年だし、僅か半年なら、この社長と顔を合わせることも我慢出来る。


 収入がゼロになることを何としても避けたい俺は、プライドよりも収入を選んだ。


 相手は有名私立中学校の生徒。彼女を附属高校に進学させればいいだけの話。俺は深く考えることなく、家庭教師を引き受けた。

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