愛花の愛は永遠の愛
第23話 愛花と永遠の約束を
地方の電車は速い。
ガタターガタター。
心地よいリズムで、走り、ときに、トンネルも抜ける。
「容赦なく電車も揺れるな――。あ、俺のジュースをそのふくよかすぎる胸元にこぼしてしまったじゃないか」
さっと俺のハンカチを取り出す。
「熱くもなんともなかったのよ。愛花ね、このふかふかなクッションはね、駿くんの為にあるの。それこそ、あなたが望むならば、どんなことでも大丈夫ですよ」
ガタタと揺れて、Fカップに顔面がむちゅっとなる。
今までは、眼福、眼福など、不届き者の考えはなかったが、愛花さんのなら、爪の先から尻尾まで、何でも可愛いと思うよ。
「いやん、旦那様、どこを突かれていらっしゃるの?」
「ええではないか。ええではないか」
地平線が眩しく光る新しい展開だなあ。ああ、旅情というものはいいものだ。
「旦那様かあ、呼ばれてみたいじゃないか」
「先程から、呼ばれてますよ」
旦那様……。だんなさま……。だんな……。
「愛花」
「旦那様」
「これからは、愛花だよ」
「愛花と呼ばれたかったのですよ」
「うふ」
こんなに可愛い子はいないぞ。しかも佐原荘では、しばしば裸エプロンにお玉で、お呼び出しもあったもんだ。
愛花さんに結婚をお願いするんだ……! 俺の頭の中は、愛花さんをパートナーとする結婚で一杯になった。
以上、半分は寝言になっていたらしい。
「ケ、ケケー。ケッコウ。ケー、ケッコウ!」
「駿くん、寝言激しいよ。大丈夫? 結構なら、やめたら?」
頬をお玉の背でぺちぺちとされて、起こされた。
はー、はー。結婚を結構でやめましたなんてお笑いだよ。冗談じゃない。
俺は、窓辺に立てかけたギターに呟いた。
◇◇◇
道中、雪は、二人のお母さんから、想い出話が尽きることがないらしく、ミルクの後のゲップが苦手だったとか、ときに楽しい話では、わっと笑い合ったり、喃語ばかりで話して心配を掛けたとか、哀しい話には、ハンカチを取り出す。
一番の被害者は、雪だとの話になると、雪も段々と打ち解けてきた。
「皆月雪の戸籍から草間雪の戸籍に移っている。雪はどの名が好きか?」
「どちらもです」
雪。いつになったら、姉さんと呼ばせてもらえるのか。
「そうだろう。では、宇都宮では皆月大和くんも待っている。皆月家で、話したいことがあったら、泣き濡れてもいい」
愛花さんのお父さんって、やはりしっかりした方だな。
◇◇◇
その日は遅くなったので、翌日、皆月家の墓参りをしてきた。
「大和父さんは、雪の葬式まであげてしまったんだよ」
「まあ! でも、仕方がなかっぺ」
父さんがすまなそうに頭を掻く。
「ごめんなさいね。こうして再会できる日を祈っていたわ」
綾乃母さんは、黙っていたが、信じて生きていた一番の人だと思う。
◇◇◇
――念願の皆月家の墓に参ったんだ。
俺は、いつか愛する人と故郷の墓前で待ち合わせたいと思っていた。今回は、一緒に彼女の里から旅してきたけれども。何故、お墓かって? こう見えても、俺は皆月家の代々の長男に当たる。そんなこともあってかな。
「愛花さん、ちょっと」
俺のよその墓裏からの手招きは、悪魔の誘いですよ。ふふふ。冗句です。
「はい、なんでしょうか?」
きょとんとタヌキみたいについてきた。寺の入り口からで、皆月家の墓がよく見える。下が砂利道で、歩くときゅっと鳴く。愛花さんが、黒のサンダルだったから、本当の墓参り風になっている。俺は、愛花さんのオンとオフの切り替えができるところも好きだ。
そうだ、ここは、皆月家の墓なんだ。
皆月家の一人となる道程なんだ。
俺の気持ちを愛花さんに伝えるのに、料亭での告白を失敗したとき思ったものだ。
本気を感じさせたいと。
「――俺と」
がんばれ、俺! 皆月駿。
一世一代なんだから!
「俺と……。俺と一緒の墓に入ってくれませんか……?」
愛花さんは、目を丸くした後で、その輝くオレンジの目を潤ませた。
……あ、外したな。料亭事件再びだよ。
「あの……」
俯いてしまった。
愛花さん……。
「私でよかったら、お願いします!」
深々と頭を下げた。
何故か泣いているような。
砂利に雫がぽたりぽたりと落ちてきた。
「皆月愛花にしてください……!」
俺は、肩を震わせている愛花さんを抱き寄せたかった。
でも、彼女、泣いたりしないかな?
「俺なんて、情けないぞ。先ず、大学も出られない。就職も決まっていない」
「就職先? 栃木じゃないといけないかな?」
「今は、雪姉さんもいるし、どこでもいいかもな。ははは」
ぴんと張っていた糸がゆるんだ。
「じゃあ、佐原荘で働いてください」
「佐原荘で……。か」
俺は、顎に手を添えて、暫し考えた末、答えを出した。
「それはいいね。俺の部屋は、どこになるのかな?」
「下の私の部屋でもいいよ」
なんてことを仰るの子猫ちゃん。
◇◇◇
皆月家に戻ると、俺は、プロポーズした旨を皆に伝えた。
全員揃っていたので、このままお式にしちゃうかとか、誰かが言ったな。
「チュウしろ、チュウ!」
「まだ、手も握っていません」
ピュアなんですって。
「嘘だ……。きっと嘘だ」
誰だよ、台無しにして。
「俺は、大切なの。愛花さんが大切なの」
「駿くん、ありがとう……」
お玉フリフリFカップ美少女が、淑女になっている。
きちんとした格好で、百合子お母さんの遺影の前で何か呟いている。
この日の為にギターも持ってきた。
愛花のロマンって曲を即興で弾いたが、暫くぶりでなまっており、弦に指が負けた。
でも、天国へは届いたと思う。
それでさ――。
結婚って、魔法なのだろうか。
「俺は、愛花と永遠の約束をする……」
――キミには、ガラスの靴よりも白いスニーカーが似合う。
はじけて、ぱっしょん!
◇◇◇
――その後、二人で『シンデレラ☆ぱっしょん』という小説を書く。
そして、愛花さんのお腹が愛おしく大きくなってくれた。
出産予定日と本の発売日が重なり、佐原荘は、賑やかになるな。
Fin.
シンデレラ☆ぱっしょん ~Fカップ愛花さんがお玉フリフリ裸エプロンで可愛いすぎる件 いすみ 静江 @uhi_cna
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