第5話
「俺の名前はシノミヤ・アキ、アキとでも呼んでくれればいい。歳は今年で18になる。」
川辺の適当な石に腰掛けて話す。立ち話で済ますような話ではないので、アキが寝泊まりしていた川沿いの付近の大木の根元まで移動し、彼女達と焚火を囲んでいる。
「名前も状態で話をするのは不便だし、質問に答える前に名前だけでも教えてもらえないかな?」
「わかりました、当然ですわね。それではまず私から。私の名はミルナミア・レインバースと申します。ミルナとでも呼んでください。齢は貴方と同じ18歳になりますわ。」
アキがそういうとミルナが頷き、簡単な自己紹介を返してくれた。ミルナの髪色は美しいアクアブルーで、特に纏めたりはせずその長い髪を背中に流している。前髪は目を覆うくらいまで垂れ下がっていて、その隙間からは髪と同じ色をした綺麗な瞳が覗く。魔法を行使する為であろう長い杖を肩に立てかけて、そっと両手で支えている。身長はアキと同じ170㎝くらいだろうか。ミルナはローブと浴衣を合わせたような白色の薄い絹の服を着流している。胸元は大きく空いていて彼女の豊満な胸が一段と強調され、時折足を組み替えるたびに覗く細くて綺麗な足と合わさり妖艶な色気を醸し出す。非常に淡麗な顔立ちをしており、一言でいうなら男を誘惑するのが得意そうな綺麗なお姉さんだ。
「あらあら・・・うふふ。」
ミルナは浴衣のようになっている袖口を口元にあて、目を細めて上品に微笑む。自分を観察しているのに気づいている。そしてチラッと胸元をみたアキの視線にも気づいたようだ。
「ありがとう、ミルナと呼ばせてもらうね。」
アキもミルナに合わせるように微笑む。
「うふふ・・・。」
「ははは。」
二人が不気味に微笑み合う。異様な雰囲気を出す光景に周りの3人は口を挟めず気まずそうにしている。
「ミルナとは話が合いそうだ。」
「アキさんとは面白いお話ができそうですわ。」
両者感じることは大体同じらしい。さすがにアキといえど戦闘の時の言動や行動だけで性格までは把握できない。だからこうして自己紹介を通して相手の性格を分析しようとしている。観察者としての癖だ。そしてどうやらミルナもアキに近い人種らしい。計算高く、自分の仕草や言動などで相手を思うように動かすのが好きな腹黒いタイプ。だが仲間想いでとても優しい。だが敵には容赦がない。アキに見せる笑顔と仲間たちに時折向ける優しい目線がその性格を物語っている。
「殿方と見つめ合うのは悪くはないのですが、時間は有限ですので次に参りましょう。ソフィー?」
ミルナは目を伏せ、一旦アキから視線を外しソフィーに話を振る。
「あっ・・・はい。ミルナさん。」
急に名前を呼ばれて戸惑いを一瞬見せたものの、コホンと咳払いをしてソフィーが自己紹介を引き継ぐ。
「私はソフィアルナ・クレイアス。皆さんからはソフィーと呼ばれてます。年は17になります。」
ソフィーは光り輝くような金色の髪をしている笑顔がとても可愛らしい美少女だ。肩より少し長いであろう髪を纏めてサイドポニーにしている。前髪は横に流しているがそれほど長くなく、背中にかけている武器の弓を射るときに邪魔にならないようにしているのだろう。翠色の屈託のない綺麗な瞳をしていて、身長はミルナよりは小さくおそらく160㎝前後。長袖の服にホットパンツのような短いズボンと白いニーソックス、そしてショートブーツを履いている。全体的に白と緑を基調とした服装だ。ミルナに比べると胸の大きさも露出もないが、それでも男が目のやり場に困るような服であるのは間違いない。長袖なのは弓を射るときに弦が腕を傷つけない為だろう。アキは昔読んだ弓術の文献にそのような記載があったのを覚えている。そしてソフィーの何よりの特徴が、人間族とは思えないような長い耳。エルフ族だろうか。
「よろしく。ソフィーはエルフって事でいいのかな?」
「そうですよー?不思議な事を聞くんですね?エルフなんて珍しいものでもないのに。」
自分の世界では超絶レアだよ、という突っ込みを心の中する。しかしエルフってのは本当に金髪で緑色の服を着て弓が得意なのだな、とアキは思う。ラノベやファンタジー系の小説ではそのような描写で描かれることが非常に多い。俺がいた世界のエルフを最初に描いた人は異世界の存在を知っていた人なのかもしれない。そうでなければこれほどまでに的確な描写はできないだろう。勿論奇跡的な偶然の可能性もあるが。
「何難しい顔しているのですー?」
ソフィーが不思議そうに首を傾げて尋ねてくる。ソフィーの言葉を受け、アキは思考の海から抜け出す。どうでもいいことまで考えてしまうのはアキの悪い癖だ。
しかしソフィーは話し方や仕草からも警戒心というものがあまり感じられない。心を開いているわけではないだろうが、彼女は人を疑うということをあまりしない性格なのだろう。悪く言えば世間をあまりしらないお嬢様。良く言えば心優しい純粋な少女。アキが彼女との会話から受け取った印象だ。そしておそらく天然の魔性の女。本人は意図せずに自然にやっているだけなのだろうが、仕草がとても男受けを狙っている感がある。
「次は僕がいくね、僕の名前はレオンナード・ボルクス。みんなからはレオって呼ばれているよ。16歳。よろしくね?」
レオは紫色の髪をしており、ショートボブのように短く切り揃えている。おそらく武器である背中に背負った大剣を両手で振るう際の邪魔にならないようにする為だろう。剣士は動き回るから髪が短い方が便利だと聞く。瞳は琥珀色で身長はソフィーと同じく160㎝くらい。地味な色の服装で長袖長ズボン。小説によくある描写の剣士のような簡素な格好だ。服の上には外套のようなマフラーを付けている。自分の得物を隠す為だろうか。だが全体的にはとても動きやすそうな服装だ。それ以外にもこの地味な格好に理由があるのをなんとなく感じるが、アキはそれを今は口に出さない。それよりなによりも特徴的なのが彼の耳そして尻尾だ。
「よろしく。レオは獣人、それも狼・犬の獣人族でいいの?」
「そうだよー、狼だね。耳と尻尾見ればわかるでしょ?」
そう言うとレオはピクピク動く耳と尻尾を見せてくる。よく小説の主人公は尻尾をモフモフさせろと要求する描写があるがすごくわかる、と表情を変えずにアキは思う。アキもあれは是非触ってみたいと思ってしまった。
会話から推測するに、レオは完全に無警戒というわけではないが助けた事に感謝をしてくれているようだ。特にアキに悪い印象を抱いてはいない様子だ。そして彼は曲がった事が嫌いな真面目で真っ直ぐな性格だろう。念の為に彼の性格を分析してみたが、そんな事せずとも彼は非常にわかりやすい。獣人の特徴である耳や尻尾に全部感情がでる。左右に尻尾を振っているときはきっと嬉しいんだろう・・・ソフィーがレオに飲み物を渡している時とかブンブン揺れていたし。
残るは赤と青のオッドアイを持つ銀髪ツインテールの短剣の少女だ。ツインテールと言っても決して長くはなく、剣を使うのに邪魔にならないようなショートツイン。そしてRPGでいうところのレンジャーのような格好をしている。布地が極端に少ない赤と黒の水着のようなトップス、そしてパレオのような短いスカートに黒のハイソックスにロングブーツ。パレオのような物を巻いているのは太ももにつけている短剣を隠す役割をしているのだろうか。ちなみに胸は絶壁だと付け加えておく。
しかしアキはオッドアイというものを初めてみた。地球でも実在するのは知っていたが見たことがなかった。美しいその瞳にアキはつい見惚れてしまう。
ちなみにアキがいくら待っても、エレンと呼ばれていた少女は口を開こうとしない。視線を向けるとキッっと美しいオッドアイを鋭くして睨みつけてくる始末。どうしたものかとアキが逡巡していると、エレンが急に立ち上がり仁王立ちして意を決したように宣言してきた。
「あんたなんかに名乗る名前などないわ!このエレンの名はそんなに安くないのよ!」
彼女の発言にアキはつい呆れた表情を浮かべそうになる。こいつは馬鹿なのかと。
「エレン?安くないと言っておきながら自分で名乗ってどうするのです?話が進みませんのでちゃんとお願いしますわ。自己紹介くらい構わないでしょう?」
横を見るとミルナがしょうがないといった表情を浮かべており、早くしろとエレンを促してくれる。
「ち、違うのよ!私は・・・!」
自分のミスを指摘され羞恥に顔を赤くするエレン。
「エ・レ・ン?私の言ったこと聞いていましたの?」
ミルナはウフフと微笑み優しくエレンに問いかける。だがミルナの視線と言葉遣いが怖いのだろう。逆らったらどうなるかわからない。そんな表情をエレンが浮かべる。
「わ、わかったわよ!ミルナに言われてしょうがなくなんだからね!エレイナ・エンフレンよ!エレンって呼んだら殺すから!」
なんというテンプレツンデレだろうか。まさにラノベに出てくるキャラクターのようだとアキは思ってしまう。しかしこの子は見ればわかる通り馬鹿だ。戦闘を見る限り頭が悪いというわけではないだろう。ドジっ子といったほうが正しいかもしれない。思ったことは言わないと気が済まないストレートな性格。決して悪い子ではないのだろうが、アキやミルナみたいな人種にとってこの性格はいいおもちゃだ。
「よろしく、エ・レ・ン。」
「殺すっていったでしょうが!」
「落ち着け、エ・レ・ン。」
「もう殺す、殺すわ!」
フゥフゥと牛のように鼻息を荒くして睨みつけてくる。今にも飛びかかって来そうだ。両隣にいたソフィーとレオがエレンの両脇を抑えてくれているのでそれは出来ないが。
「初対面でエレンに平然と対応するとか・・・凄いですー。」
「獣人の僕が言うのもなんだけど、うちの猛犬なんだよ、エレンは。」
ソフィーとレオが感心半分、呆れ半分という感じで話しかけてくる。
「あらあら・・・アキさん、うちのエレンをあまりからかわないでいただけると助かりますわ。」
そしてミルナがアキを諫める。
「わかったわよ!飛びかからないから離して!」
そう言ってエレンは掴んでいた2人を振り払う。そしてアキの前までノッシノッシと猛犬ではなく猛牛のように怒りを露わにやってくると、仁王立ちして腰に手を当てて宣言する。
「大体、こいつの助けなんていらなかったの!私達だけでもやれたのよ!あんたは余計な真似をしたのよ!」
「そうなのか?」
アキが簡潔に問う。
「そうよ!」
「そうか。」
「そうよ!」
「一ついいか?」
「何よ!」
「エレン、パンツ見えてるぞ。」
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