第7話
「みなさん、静かに」
パンパンっと両手を叩きながらマイクの前で注意をする金髪の男が和正と拓真から
聞いていたヅラ3のうちの1人、教頭だ。
背が小さく小太りのメガネでお世辞にも
カッコイイとは言えないスタイルの悪い
純日本体型とも言えるずんぐりとした体の
持ち主で、性格は陰湿で根暗。
生徒の校則違反を目にしたら声をかけ、
そこからネチネチと20分近く説教をする。
本当は男子校の教師になるつもりは
なかったようで、男子生徒の不祥事を
見かけると「これだから男子校は」と
嫌味ったらしく呟く。
そんな性格がひん曲がっている男が
何を血迷ったのか金髪にするとは。
駿はあの男のヅラを目にした瞬間にツボを
押さえられてしまっていた。
辺りの先生が教頭の呼びかけに呼応し、
ダラダラと話を止めない生徒に注意を呼びかける事5分程度、ようやく場が静まった。
「え〜みなさん静かになるまで10分かかりました」
こちらを呆れながら愚痴っぽくため息
混じりに話を始める教頭に今までは
イライラさせられていた。
だが似合わないを通り越して憐憫の感情を
思わせる教頭の姿は下手な芸人の漫才よりも
滑稽だ。
「本当にねぇ、君たちはどうしようもないねぇ、こんな簡単な事にこんなに時間がかかるなんて先生は君たちの将来が心配です」
はぁ〜っとため息を吐く。
チラチラと髪の毛が揺れており、
生え際との違いや微妙にサイズが合っていない事に気付くたびに堪え切れなくなっていく。
見ちゃダメだ、見ちゃダメだ、見ちゃダメだ。
駿は顔を両膝で挟み、ギュッと目を閉じて
ただ時間が過ぎることを待つことにした。
「そういや何で教頭って金髪にしたんだっけ? 」
隣にいた生徒のヒソヒソ話が聞こえる。
「知らねぇの?アイツが校則捻じ曲げてでも
金髪にした理由、結構有名だぜ」
視界が閉じたせいか、聴覚が敏感になり
より鮮明に声の形を捉えてしまう。
「何それ、面白そうじゃん」
愉快そうに話す声を聞いて、この情報を
知ってしまうと自分の身が危ないことは
重々承知していた。
だが、10代の男には押さえられない好奇心
という衝動に駿は身を任せてしまう。
「あいつさ、教頭になるまで我慢してたんだってさ、憧れの人と同じ髪色になること」
「へぇ〜誰に憧れたんだ? 」
疑問を投げかけられた男はすでに半分
笑っており、震えた声で何とか言葉にしようとしていた。
「X JAPANのYOSHIKI」
耳に届いてから言葉が形になって信号となり脳に到達してから知識という濁流の中から
1つの情報を引き出す。
ここまでの流れはおよそ2秒にも満たない
一瞬の出来事だ。
だがこの2秒を今ほど後悔したことはない。
「プッ、ッハッハ」
息がおかしい、呼吸が乱れる、鼓動がデタラメだ。
両膝に顔を埋めて必死に声を、震えを、
止めようとするが笑いは滝のように流れ、
心を溢れさせる。
「少し、笑い声が聞こえますねぇ」
冷んやりとした声が体育館に響く。
体の芯がスンっと縮まり、耳の辺りの細胞がやけに意識を持つ。
しかし、駿の笑みは止まらないし、顔を
上げることも出来ない。
教頭が憧れる事を馬鹿にしている訳ではないが、あまりにも似合わない事実を受け止めるには駿は若すぎた。
周りの視線や雰囲気は伝わらず、ただ自分の動揺だけが感じ取れた。
ダメだ、もう限界だ。
これで俺の学校生活は終わるんだ。
覚悟を決めて、最後は凛とした表情で顔を上げるが、少しだけ口が引くついていた。
「そこの私に指をさしていた2人、今から
職員室に来るように」
そう言って指をさした後、壇上を降りていく教頭。
2人‥ ?
俺じゃないのか?
何が起きたか分からない、
俺は教頭が指した方向を向いてみる。
するの、頼りになる2人の男がこちらを見ていた。
拓真と和正だ。
まさか、2人とも俺のために‥
こちらに口パクで馬鹿野郎と拓真、
しゃんとせぇ、と和正が俺にエールを送っていた。
俺はただ2人にごめん、としか言えず、
そしてありがとう。
それだけを2人に伝えようと口を動かした。
しばらくして先生に連行される2人の最後は、俺を非難することなく、ただハゲますようにグーサインと笑顔をこちらに向け、
体育館を後にした。
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