第6話

 むさ苦しい男たちが収容された高校は

いつもと変わらず少しの制汗剤の匂いと

汗の酸っぱさが漂う。


 教室に入った時、クラスメイトが全員ヅラ

という光景を覚悟はしていたが腹の底に湧き上がる笑いを押さえるので精一杯だった。


 2人の助けを受けながら何とか危機を切り抜けてきたが、まだ油断はできない。


 これからはヅラ3のうちの2人を一挙に

相手にしないといけない悪魔のイベントが

あるのだ。


 教室で担任の久しぶりの挨拶が終わり、

俺たちはすぐに廊下に背の順で並ばされ

体育館に向かうこととなる。


 始業式だ。


 拓真と和正が言うには、この始業式で

もしヅラを笑うようならば全校生徒や全ての教師を敵に回すこととなる上に、残された

ヅラ3の2人も出てくる最悪のイベントとのことらしい。


 さらに状況は悪く、拓真と和正とはクラスが違うため、ここからは1人でこの試練を切り抜けなければならない。


 憂鬱な気分で歩く駿はそのまま渡り廊下を通り一度階段を降りて、そのまま校舎を抜ける。


 すると目の前に錆びた鉄板の屋根の下に

続く道があり、その先に目的の体育館がある。


 駿のクラスが入る頃には既に1年・2年は列を作り、ガヤガヤと好きなように話をしていた。


 あぐらをかいて後ろの男や隣の男と

ゲラゲラと笑い合っている生徒は普段通りだが男たちの定着していない髪の毛が日常を

ぶち壊している。


 ふと辺りを見て思う。


(この体育館にいる全ての男は全員ヅ‥ )


 やばい!

駿は頭を俯きすぐに手を口に当てて笑いを

こらえる。


 やばい、言葉にするとダメだ。

分かってるはずなのに笑いが波のように

理性をさらっていく。


 しばらく震えながら、どうにかこうにか

笑いを押さえて列の最後尾近くに座る。


 体育館の舞台から見て、前は3年・2年・1年と分かれており、3年3組の駿はちょうど

センターで映画館なら真っ先に売れるような

良席だった。


 文化祭の時には劇やダンスが観やすく

ラッキーっとほくそ笑んでいたが、今の状況ではアンラッキーでしかない。


 今の体育館は、学生が勝手に喋って教師の

忠告など聞こえないほど騒がしくなっている。


 だが、青春真っ盛りの男子中学生の集まりなどマナーやルールなどを破ることに美徳を

感じている男が多いため、先生たちはいつも苦労して風紀を守ろうとしている。


 そんな状況をつゆ知らず、笑わないために

駿は何も考えずにボーっとしていた。


 先生たちが静かにしろ!黙れ!と叫んでいるのを見ていないテレビのように流しながら辺りを傍観する。


 ふと教師たちに目を向けると、1人やけに

張り切って声を上げて目立つ先生がいた。


 少し気になり注意深く見たが、駿はすぐに後悔することとなる。


 それを見た駿は、勢いよく両ヒザの間に

顔を埋めて肩をプルプルと震わせる。


 しまった、気を抜きすぎた!

 アイツがヅラ3の‥


 少し間を置き、ゆっくりと顔を上げて

もう一度やつを見つめる。


 眩いばかりにキラキラと輝く黄金の毛髪を携えた小太りの中年メガネ。


 ヅラ3のうちの1人、《 《教頭》》を





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