第2話
「何が起こってるんだ‥ ? 」
思わず声をこぼす駿はいつもの電車に
乗り、いつもとは違う異変に戸惑っていた。
駿が通う高校は男子校で、いつも最寄駅に近づくにつれ電車の中は男一色で女性専用車両はいつもガラガラだった。
そんな男だらけの電車では体臭と汗の匂いがきつく、学生の笑い声や高い室温などが
当たり前である。そこは変わっていないのだ。
だが隣の小太りのスーツ姿のオヤジ、
扉付近でカバンを置いて歓談している学生たち、そして目の前で座っているスーツが似合ない若い青年、それら全員の髪が‥
(ヅラじゃん)
見渡す限りのヅラは笑いよりも恐怖の感情を芽生えさせる。
えっ日本人ってそういう人種だっけ?
と思わされるし、逆にヅラを付けてない自分がおかしいの?と頭の中が混乱しはじめる。
駅を降りるまでヅラに囲まれた駿は
悪い夢ではないのかと頬をつねるが痛かった。ついでに髪の毛も引っ張ってみたが
頭皮に痛みが走り、ヅラではない事を教えてくれた。
その行為を見つめる周りの人の目線は
「良いヅラつかってるね」と多くの賞賛と
少しの嫉妬が混じっていた。
おかしい、こんな世界はおかしい。
隣の青山さんはヅラではなかったし、
電車の中がヅラを被っている男で満たされることなど一度もなかった。
テレビのドッキリの撮影でもあるのか?
無理のある推理だが、この異様な光景の理由は、それしか考えられない。
異例の事態に頭を悩ませる駿はブツブツと
何かを呟きながらトボトボと歩く。
するとその後ろに元気よく肩を組もうとする2人組の男たちが現れた。
「おはよー!駿! 」
太い腕が右肩にかかり、勢いのままもたれかかってくる。
こんな事するのは1人しかいない。
「何だよ
「どうした駿 ?」
嘘だろ、、
まさかこいつらも?
駿は長い間共にしてきた友達の変貌に
空いた口が塞がらなかった。
「駿どないした、何か悪いもんでも食ったんか? 」
関西弁で背の小さい男、これは
(お前ら‥その髪はどうした?)
拓真はソフトモヒカンが右にズレて、
デカイたんこぶが出来たような髪型になり、
和正はデカイ頭にヅラのサイズが合っておらず河童の皿のような髪型になっている。
周りの男たちがヅラになっているのは
まだ許容範囲内だった。
だが長年連れ添ってきたお前らの毛根の
死滅は流石にキャパオーバーだ。
「そういや駿、ヅラチョイはどうしたん? 」
ヅラチョイ?
何だそれは。
「ほんまや、次はミルクティー色の髪を
選ぶって張り切ってたやん」
耳慣れぬ単語に覚えのない自分の発言に
ヅラの人への気遣いや配慮をしていた抑制が外れた。
「誰の髪がミルクティー色だっ!! 」
通学路に響き渡る叫びは周りの男のヅラを
少しだけたなびかせた。
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