第5話 SNS部隊
『SNS部隊』を指揮してるのは宝田と名乗る一人の若者だった。
「ざっとツイートをみてほしいんですよ。見やすいようにまとめときました。」
そういうと、MacBookを飯波に差し出した。
画面には、チェック用につくられたと思われるスプレッドシートが開かれていた。ツイートがずらっと並んでいる。
「ざっとみて、おかしなことを言ってるアカウントがいたらチェックボックスにチェックしてください。」
「おかしなって、外注しているんですか?」
「いや、自動生成してます。いわゆるボットってやつです。」
「あー。つまりアノテーション(注1)ですね。」
「さすがですね。こういうのはアノテーション命なので。おかしな発言が多くなってきたら学習し直します。」
ボットの発言が並んでいるスプレッドシートは、行数が多すぎてスクロールバーが消え入りそうな細さになっている。
「ずいぶんたくさんありますね」
飯波がうめく。
「こいつらは教師ボットといってアノテーションで修正される行儀のいいやつです。こいつらのデータをもとに似たようなやつが大量に沸いてます。全部やらなくていいですよ。できるところまでで。」
仕方ない、と飯波が作業をはじめた。ボットたちの発言は、とりとめもない話から、ニュース記事を引用してコメントする発言、リツイート、リプライなどまるで人間のように自然だ。
しかし、こいつらの発言を真に受けて投票する人がいたとして、それは公正な選挙なのだろうか。
「やってるのは俺らだけじゃないですよ。」
宝田が見透かしたように喋りだした。
「大統領選がハックされてたのは有名な話ですが、いま世界中どこいってもこんな感じですよ。大量のボットをサイバー空間に放って情報を歪める。フェイクニュース、感情的な発言、大量のリツイート。その結果、ネットはゴミだらけになる。掃除するやつもいない。」
宝田は続ける。
「でも他の陣営がやってるのに俺らだけがルールを守っても不利になるだけ。SNSから動画サイト、掲示板、まとめサイト、あらゆるプラットフォームで情報発信してトレンドに乗せる。アホな記者やテレビディレクターが食いついたらそれが『事実』になる。直接的にマスコミのアカウントをのっとってもいいんですが、それはボスがやるなって。」
現代の選挙戦はそこまで行っていたのか。飯波は頭が熱くなるのを感じながらチェックを続けた。
注1:AIの学習に必要なデータを人力で作成すること。
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