第4話 AI党

西田の事務所は2000年代を象徴する再開発プロジェクトで建てられた全面ガラス張りの都心の超高層ビルにあった。

豪華な外観とは裏腹にやや年季のはいったオフィスにはいると自分と同じようにかき集められたと思しきボランティアとスタッフがせわしなく動いていた。

知っている顔はひとつもない。


受付らしい長机に近づくと、若いスタッフがパーカーを差し出した。

広げると真っ黒な布地に


「The AI Party」

と白地で刺繍がしてあった。


「AI党?」

飯波がいぶかしげに顔をしかめると、羽織るように促された。周りの人間もみな真っ黒のパーカーを着ている。集団行動は嫌いなんだよな、とひとりごちながらしぶしぶ着込んだ。


奥の部屋にいた西田は、同じように黒いパーカーを着込み、笑顔で待っていた。

パーカーの下にはスーツを着ているようだった。なんとなく変な取り合わせだなと思った。


「助かりました。若いスタッフが多くて込み入った仕事をお願いできる人が少ないんですよね」

「何をすればいいんですか?」

「まずは原稿をみてほしいんです。明日第一声なんで。」

選挙期間初日の演説を第一声という。泡沫候補でも取材が入るので大事だ。


「私、政策とか詳しくないんで。」

躊躇する飯波に強引に数枚の印字されたA4コピー用紙が渡された。

反射的に読み始めてしまった。


・・・


「どうですか?」

「面白い、と思います。実現性がよくわからないけど。」

「よかった。飯波さんみたいな方に刺さるのであれば勝てそうです。」


西田は満足げであった。


西田の公約は聞き慣れない単語が並んでいた。


都民限定ベーシックインカム

ダイナミック住民税

ポイント制社会保障

汎用マッチングシステム

・・・


なんとなくすごそうだが、どういう政策なのか検討がつかない。

そもそもベーシックインカムなど技術的・法律的に実現可能なのだろうか。


「もし、手が空いてたら。」

西田が続けた。

「SNS部隊の手伝いをしてほしいです。」

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