第2話 西田明
2019年夏
「いまの政治家は、ロールプレイングをしているだけ。だれもリアルな政治(ポリティクス)をやっていない。」
眼の前の男は、そういってビールを飲んだ。
『AI経済を考える』というセミナーの懇親会。飯波はたまたま講師の目の前に座った。
「参院選に立候補している連中の選挙ポスターをみればよくわかる。東大卒、早慶卒、元官僚、元記者、元外資系。信念、理念じゃなくて経歴を売ってやがる。これは国政選挙じゃないですよ。挫折したエリートたちの就職活動です。」
男は続けた。
「受かった連中もそうだ。飯波さんは国会中継ってみたことありますか。」
飯田は、首を横にふった。
「彼らの質問は本当にくだらない。特にテレビ中継の入る予算委員会。彼らの質問は情緒型なんですよ。ロジックに基づかずひたすらテレビにどううつるかを気にしている。インスタ女子と一緒。映(ば)えるかどうかだけ。答弁もくだらないんですがね。」
飯波は、終電を気にしながら話を聞いていた。
「政治家が仕事になってしまったんですよ。僕ら日本人は仕事といえば嘘もつくし人が死んでも気にしない。コントローラー持ってロールプレイングしているだけですから本当の心は傷まない。」
男の言うことは少しわかるような気はする。自分も仕事では本意と違うことでも平気で言ったりする。
西田という名前の講師は、無名私大の助教だがAIブームの中でそこそこ名が知られていた。IT企業で営業をしている飯波はダイレクトメールをみてセミナーにでかけたのだった。西田の話は、AIによる経済の変革で働く必要がなくなるという話で、ビジネスに役立つ感じではなかったが、事前に登録していたため、律儀に懇親会に参加したのだった。
「飯波さん、僕は選挙に出ようと思っています。応援してくださいね。」
西田は、不敵な笑みを浮かべて宣言し、そのまま別のテーブルに行ってしまった。
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