AI党の落日

@_000

第1話 202x年 東京拘置所

殺風景な独房でひとり空を見つめているその男は、かつてこの施設の職員全員の上司であり、ここで生活する33人の死刑囚の生殺与奪権を握っていた。

不当な仕打ちに怒りをみなぎらせているのか、それとも、政敵に足元をすくわれた自らのうかつさを悔やんでいるのか。

彼の表情は、しかし、穏やかであった。


理想郷の建設を企て、一度は現実のものとした人間にとって、その後の人生などどうでもいいのかもしれない。クリアしたゲームの余韻に浸るように、彼の心は記憶のなかを漂っているのだろう。あるいは、塀の外でゲームの続きをプレイする相棒のことを思っているかもしれない。


飯波哲夫、前法務大臣・元官房副長官、衆議院議員、この数年の日本政治の中心にいた男。

彼はもともと政治家ではない。エリートでもない。それどころか、凡百のサラリーマンだった。


話は2019年に遡る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る