第20話 From another dimension(異次元から)
そんなたわいのない話をしていると、僕と山田の目にふと気が付くと進行方向の右手側に細い路地が目に入ってきた。
その通りは本当に暗く、闇の世界につながっているようだった。漆黒という言葉が当てはまるものであった。僕と山田は思わずそっとした。鳥肌が立った。そう思っているとその闇の細い路地より子犬が、「キャン、キャン」と鳴きながら、走り出てきた。それと同時にその路地の入口にいた野良猫が、その闇の方向を見ながら、威嚇して毛を逆立たせ、漆黒の闇の向こうの何かに威嚇し唸っている。
僕は思わずその方向をじっと見ていると、闇の奥から光るものが二つ、こちらをじっと見つめている様子がうかがえた。
僕は、その視線に目を合わすとことはしなかった。というのもその視線に気が付いた瞬間「やばい」と直感で感じ取った。というのも闇の奥より光っている目の輝きに「邪」を感じたからだ。その邪気は、おどろおどろしいというよりは、なんだかもの悲しい思いの積み重なりの邪気を感じ取った。邪気だから、おどろおどろしいというのはあるのだが、そのおどろおどろしい感情のさらにその奥には、悲しさが潜んでいた。山田も同じくその邪気を感じ取ったようで、僕と同じ方向に目を向けていた。
山田「酒井さん、危ない。早くここから去りましょう。あの路地の闇からはなんだかすごく邪悪な気を感じ取れるんですよ。俺の腕を見てくださいよ。鳥肌がこんなにも立っていますよ。こんなに鳥肌が立つのって初めてですよ。」と言ってきた。
僕「そうだね。山田君の腕の鳥肌もすごいね。僕もこんなに鳥肌が立っているよ。それとこの邪気は、生半可な気持ちでは立ち向かえないね。動物はその邪気を感じ取ったんだよね。動物ってすごいよね。」
山田「俺、今の闇の邪気は、おどろおどろしい気持ちの奥には、悲しみと憎しみが潜んでいるように感じ取ったんですけど。酒井さんはどう感じられましたか。」
僕「僕も山田君と同じだよ。悲しみと憎しみがもとで、あの邪気になったような感じだね。でも、あの邪気には、僕たちのパワーでは、太刀打ちできないよ。」
山田「俺もそう感じちゃいました。だから、早く去りましょうとお伝えしたんですよ。なんだかあの邪気は本当にやばいって感じちゃったんですよ。話は変わりますがそれはそうと、俺と酒井さんってソウルメイトな感じがしてきましたよ。」
僕「僕はホアンキエム湖で再開した時、山田君とソウルメイトって直感で感じ取っちゃいましたよ。」
山田「そうなんですね。同じ感覚をお持ちでうれしいです。なかなかこんな出会いが頻繁にあるとは思えないんですが、これはやはり出会うべきして、出会ったって感じですよね?」
僕「山田君の言う通りですね。出会うべくして出会ったという感じですね。」
と、たわいのない会話を僕と山田はしながら、ハノイの夜市を楽しんでいた。
ただ、僕は先ほどの細い路地で邪気を感じ取って以来、僕たちの後に何かの気配をずっとついてくる感じがしていた。
僕たちが一瞬、通りに立ち止まると、その邪気は僕たちの前を歩いてた男女の足に絡みついた。足に邪気が絡みついた男女は、生気が徐々になくなっている状況が、まざまざと伝わってきた。そのうち、その女性の気分が悪くなったようで、夜市の通りの傍らに座り込んでしまった。
その様子を見ていた僕と山田は「ぞっ」とした。というのもその邪気の塊の中からは、うじょうじょと細かく分解された漆黒のような塊が男女二人へ覆いかぶさった。そこで漆黒の塊は、まるで黒い布でも覆いかぶせるように幕をはり、その男女を覆い包んでいった。
僕と山田がその光景に気が付くと、先ほどの男女は、僕たちの前からまるで神隠しにでもあったように姿がなくなっていた。僕と山田は二人して「えっ」という言葉が口から思わず出た。まるで時の風にさらわれていった感じだった。あっという間に姿がなくなった。その姿が消え去る間際に、「うぉー」といったうめき声が風と共に聞こえた。一瞬、僕と山田は金縛りにあったが、すぐに金縛りが解けた。
山田「酒井さん、今の一体何だったんでしょうね。俺、一瞬のことですが、その時間には金縛りになりましたよ。」
僕「山田君、僕もですよ。金縛りになりましたよ。」
ただ、周りの人たちは、そのおぞましい光景に気が付いてなかったようだ。ということは、その二人の男女は、周りの人には見えていなかったということだろうか。黒幕に覆いかぶされた人たちって、それってこの世の人じゃなかった?と直感した。それと同時に僕は血の気が引いた。
僕「山田君そろそろ夜も遅くなって来たし、それぞれのホテルへ帰りましょうかね。」
山田「はい。そうですね。明後日の朝、俺が酒井さんのホテルまで迎えに行きますよ。ぜひ、見送りへ行ってもいいですか。ホテルは、以前、伺っているクオック・ホア・ホテルでいいですか?」
僕「じゃぁ。明日の朝、9:00にホテルのロビーでお待ちしていますね。明日はかなり歩くと思いますから、歩きやすい格好がいいですよ。明日は僕のハノイ滞在の降り時間の最終日なので、一緒に市場へ行きましょう。」
山田「わかりました。了解です。」
僕「明日は、ドンスアン市場、通称ベトナム城跡のタンロン遺跡にでも行ってみましょうかね。市場では、商材を探すので、山田君もお土産を買うのでしたら、市場のが安く買えるのでいいですよ。結構楽しいと思いますよ。」
山田「はい。楽しみにしています。それじゃ、酒井さん、明日も引き続きよろしくお願いします。おやすみなさい。」
僕「じゃ、明日ね。おやすみなさい。」
僕と山田は、おやすみの挨拶をし、それぞれのホテルに向かい歩き始めた。夜道は、日中とは違う風景に出くわす。僕がホテルへ向かって歩いていると、路上に止まっているバイクに乗った男性が近づいてきた。
男性「お兄さん、いい子のいる店あるけど連れていくよ?」と流暢な日本語で話しかけてくる。
東南アジアではよくあることだが、風俗を斡旋する客引きが夜になると観光客相手に客を募るのだ。初日の夜にもおなじことがあった。商魂たくましいというか、生活がかかっていて大変そうだなって思った。
僕「NO THANK YOU」といい、断った。
と、思っていたら、次は、麻薬を持ち掛けてきた。そちらも同様に断った。そんな面倒くさいやり取りをしていると、気が付けば道を迷っていた。
夜なので、日中の雰囲気とはかなり異なっている景色に見える。僕の目についた通り沿いにあったコンビニエンスストアーに入って道を尋ねた。僕は英語で話しているが、店員は英語がわからないようで、ベトナム語で何かを言っている。そういえば、ハロン湾へ行く前にホテルのビジネスカードを受け取っていたことに気が付き、デニムのポケットに手を入れると、運よくそのビジネスカードは捨てずに持っていた。その住所を教えてホテルへの道のりをようやく教えてもらった。僕はその店員から道を教えてもらい、右往左往しながらどうにかホテルへ辿り着いた。
ホテルへ到着した僕は「ホッと」胸をなでおろした。ホテルのフロントのボーイからルームキーを受け取った。
ボーイ「酒井様、今晩はハノイの夜市がありますが、見学されましたか。ハノイ最大の夜市が週末に開催されるんですよ。」
僕「もちろんしましたよ。すごく活気があって楽しめましたよ。観光客が結構多かったですね。日本でも夏になるとおなじような夜市がありますから、なんだか懐かしい感じで楽しめましたよ。」
ボーイは、日本では夏に夜市が開催されることに、なんだか「ピン」ときていないようできょとんとした表情をしていた。そういえば、ここは南国ハノイだから、年中夏だから、あまり季節の変わり目って関係ないんだと、地球の広さを実感した。文化の違いもだ。
エレベーターホールでエレベーターが来るのを待っていると、ヨーロッパ人の老夫婦が僕の後ろに待っていた。彼らが僕に英語で話しかけてきた。
女性「こんばんは。旅行ですか?私たちは、先ほどまで夜市を見学していました。夜市へ行かれましたか。」
僕「こんばんは。僕も連れと夜市を先ほどまで楽しんでいましたよ。」
間もなくすると、エレベーターがきたので乗り込みそれぞれの階で降りて行った。
僕は、部屋がある6Fで降りた。部屋に着くとエアコンをつけ、まずは火照った体の熱を冷ました。それと同時に今日一日のハロン湾からの疲労感が出てきた。僕は同時に、バスタブにお湯を入れ、入浴の準備をした。テレビをつけるとベトナム語のテレビ番組が流れ始めた。途中、ニュース番組に切り替え英語のニュースをBGMとして聞いていた。
今日のハロン湾と夜市の写真をデジカメで見直していた。なかなかいい感じに撮れている。画像の整理をしているとバスタブにお湯もたまり、丁度いい具合にお湯がたまっていた。
僕は、入浴した。バスタブの中に足をつけ、体をゆっくりとお湯の中に沈めていった。火照った体にお湯がゆっくりと覆ってくる。思わず「ああ」と声が漏れた。今日は、ハロン湾の鍾乳石や夜市とかなりの距離を歩いた。足がパンパンに浮腫みそうだった。ちょうどいいお湯の温度のバスタブにつかり、足の裏からふくらはぎまでマッサージをした。マッサージのおかげでかなり足の疲れも取れたような気がしてきた。あくまでも素人のマッサージのため、一時的な疲労感の軽減に過ぎない。
僕はお風呂から上がり、明日のルートのサーチをし、ドンスアン市場とタンロン遺跡にでも行こうかなって思ったりもしている。ドンスアン市場へはホテルの前の通りであるバットタン通りを左へ向かい歩いていくと、今晩の夜市のメイン通りのマ・メイ通りに突き当たる。突き当たると左へひたすら直進していくとドンスアン市場へたどり着くはずである。インターネットで念のために地図を確認した。僕の予想通りのルートで大丈夫そうだ。
そういえば、山田は無事にホテルにたどり着いたのだろうかと少々心配になってきた。でも、男の子だから大丈夫だろう。それに山田は、僕と同じ感覚を持っているので少々のトラブルは回避できると思った。ベッドに横たわり明日の予定を再度確認した。そのうちにうとうとと眠気に襲われ、気が付くと朝になっていた。
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