第18話 Once a lifetime(一期一会)

僕と山田は、なんだかメランコリックになりながら、クルージングを続けた。


これから、ハロン湾クルージングの船着場へ戻ることになり、最後のハロン湾のクルージングを思いっきり楽しんだ。海のさわやかな風、「ピーヒョロロー。ピーヒョロロ」と海鳥の歌声、僕の耳にかすかに聞こえてくる波の音、船のデッキに出て、空からの優しい日差しを浴びながら、時間の流れを感じていた。


山田も同じ感じのように、最後のクルージングを楽しんでいるようだった。船からの海の桂林と呼ばれる風景を改めてみている。海中から突き出ている一つ一つの岩山、まさに桂林という感じだ。気が付くと徐々に陸が近づいてきている。ベトナムの歴史を垣間見られたクルージングの時間もいよいよ終了となる。徐々に町のにぎわいも感じ取れてきた。車の通る音が聞こえる。いよいよハロン湾クルージングのエンディングとなる。陸地が見えたと思うと、あっという間に港へと上陸となる。


僕と山田は船のクルーにお礼を伝え、船を降りた。ガイドのファンさんも一緒に。


ファンさん「酒井さん、山田さん、いまから来た時の車でハノイ市内へ戻ります。途中下車も可能ですよ。そうそうトイレ休憩はありますから、安心してください。行きたいところがあれば、私へいってくださいね。」


僕「ファンさん、そうですね。夕食をどこで食べようか思っていたので、感じのいい、ベトナムを感じ取れるお店を紹介してもらえますか。」


ファンさん「いいですよ。何料理がいいですか?ベトナムを感じ取れる料理って、やはり、ベトナム料理ですよね?ローカルフードですか。それともコース料理にされますでしょうか。」


山田「そうですね。酒井さんは、いかがですか。コースとローカルはどちらがいいですか。俺はどちらでもOKですよ。」


僕「落ち着いた雰囲気のお店で、ベトナム料理でしょ、もちろん。ちなみにベトナム料理で、鍋料理なんかありますか?」


ファンさん「ご希望のお店に近いものはありますよ。今、観光客だけでなくハノイっ子にも人気があるのが、ライムを使った鍋です。具材は一般的なものですが、ライムの香りがする鍋のスープが人気なんですよ。あっさりしていて外国人にも人気ですよ。」


僕「山田君どうですか?僕はそのお店いいと思いますよ。そのお店に連れて行ってくれますか。ちなみに僕と山田君の滞在しているホテルから近いですか。」


ファンさん「酒井さんのホテルまでは、歩いて5分以内で戻れますよ。山田さんのホテルへも歩いて5分かからないぐらいですよ。」


僕「それじゃ。そこがいいですね。山田君はベトナムの鍋料理はいかがですか?」


山田「俺もそこがいいです。ベトナムの鍋料理っていうのも気になりますしね。それぞれの国の鍋料理の味付けにも興味ありますね。俺、全くイメージがわかないから、なんだかわくわくしてきちゃいましたよ。」


僕「今晩は、そうするとベトナムの鍋料理にしましょう。ファンさん、そのお店で、途中、僕と山田君を降ろしてください。」


ファンさん「わかりました。そうそう、そういえば、今日からの週末の三日間はハノイ最大の夜市がありますよ。レストランの近くでハンガイ通りというところがあり、その通りが道の両サイドに露店が出てにぎわっています。ハノイっ子の楽しみが体験できると思いますよ。是非、夕食後の散歩で行ってみてください。露店は、お土産物屋から、日常雑貨、ローカルフードの飲食店が軒を連ねていますよ。値段も露店ですから、かなり安いです。」


僕「ファンさん、そうなんですね。ラッキーですよ。夜市なんて、僕は子供の時以来ですよ。日本では、いまでも夏の土曜日に開催される土曜市というのがありますよ。おそらくハノイの夜市と一緒のような感じがします。でも、危険じゃないですか?大丈夫ですかね?」


ファンさん「日中でも街を歩くときには気を付けていらっしゃると思いますので、お二人なら大丈夫ですよ、きっと。でも油断はしないでくださいね。後、暗闇の路地には注意ですよ。いろいろ危険ですからね。何といってもここは日本と違うベトナムですからね。」


山田「俺も子供のころ、夏の夜市には親に連れられて、よく行きましたよ。なんだか懐かしいですね。是非、行ってみましょうよ。酒井さん。」


山田も親に連れられ僕と同じように夜市へ行っていたんだと思った。ということは、育ってきた環境も結構していたりしているのではないかと思った。


僕「是非、夕食後、散歩がてら行ってみましょう。」


僕は、夕食の話をしつつ、車窓に目を向けると夕刻の帰宅時間に重なったようで、ハノイに一瞬ごとに近づくにつれ、車がかなり渋滞している。その場面だけ切り取ってみると、日本にいるのと変わらないような気がした。先ほどまでクルージングを楽しんでいたハロン湾が、僕の視界からだんだんと夕闇へ消えていく。時間が一刻一刻と過ぎていく感じを目の当たりにした。


一直線に伸びる道路には、もちろん街灯などはほとんどない。日本であれば、夕間暮れの時間帯から道路の街灯は点灯する。しかし、逆に至れり尽くせりの日本では、人々は安心しきって、日本の安全感に頼り切っているのかもしれない。自分の身は、自分自身で守ることが本来の姿なような気がした。僕の動物的感もそう言っているような気がした。


今回のハロン湾クルージングでふと気が付いたことがあった。日中のハノイの空って晴れているのに、なぜか霞んでいる気がする。これは大気汚染なのだろうかと思った。自然環境が危機に襲われているのを体感した。よくテレビのニュース番組では、とある国の大気汚染の話題がよくでるが、テレビ越しに見ていると他人事のように思えていた。その思いが、今回ベトナム ハノイへ来たことによって他人事には思えなくなった。


そうそう、東南アジアで車に乗っていていつも思うのだが、日本のように信号が多くないため、車の速度がすごく速い。「飛ばしすぎでしょ」と思うのである。バイクは、車と車の間をうまく切り抜いていく。車はと言えば、右往左往しながら車両の間に割り込んで少しでも前へ進んで行こうとする。ある意味無秩序な世界のように思われる。僕はそんな時思うのだが、そんなに急いでも到着時間はそんなに変わらないのと。


東南アジアにいつも出かける際に、こんな風景の中にいるのが何とも言えず落ち着く。実際にはかなり危ない運転ではあるけれど。僕たちの乗っている車の横をバイクが通り過ぎていった。そのバイクには5人乗りをしていた。危なくないのかなって冷や冷やしてしまった。ガイドのファンさんへ聞いてみた。


僕「ファンさん、バイクの5人乗りとか大丈夫なんですか?定員オーバーなどで、検挙はされないんですか。」


ファンさん「私もいつもかなり危ないと思っていますよ。でも、警察も取り締まりしませんからね。」


山田「俺も危険な運転のドライバーが多いなって思っていましたよ。日本じゃ、考えられないですよね。」


まぁそれはそうと、今日音連れたハロン湾の美しい景色、海の桂林と言われるほどで、やはり、絶景と言わざるおえない経験をした。さすが世界遺産に登録されるだけはあると思った。ハノイの唯一のパワースポットいわれるほどのことはあった。ハロン湾の海から、空から、風からすべてのものから、自然界からのエナジーチャージができたような印象を受けた。


僕は風水の仕事の材料も多く画像と納められた。帰国後はアジアの風水散歩のコーナーで紹介する予定だ。僕と同様に山田も同じく感動しているようだった。


途中、トイレ休憩をし、僕たちを乗せた車も、さらに加速し始める。気が付くとハノイの市街地のネオンが見えてきていた。


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