第14話 Cruising begins(クルージング開始)

僕「ファンさん、今日は、混んでいるんですか。すごい観光客の人たちですね。世界各国から、世界遺産であるこのハロン湾を訪れているんですね。さすが世界遺産って感じですね。」


ファンさん「今日の混雑ぶりは、いつもと同じですね。平日なので休みに比べると、ベトナム人がいない分少くなくてまだましですね。ハロン湾へは、世界各国から人たちが訪れますね。酒井さんと山田さんの船は、日本人専用の客船を用意しているので、ご安心してください。ヨーロッパ人観光客へは、ハロン湾客船で一泊二日のツアーが人気あるんですが、日本人には5時間コースが人気ありますね。日本の方はみな忙しいみたいですからね。」


ここでも日本人気質が伺えるようだった。


山田「酒井さん、各国からすごい観光客の人数ですね。俺びっくりしちゃいましたよ。もし俺が、一人で来ていたら、きっと、かなりあたふたしていますよ。」


僕「今日は、これでも人の多さはそうでもないみたいですよ。ファンさんに伺ったら、いつもはもっと人が多いようですよ。ちなみに僕たちの乗船する船は、日本人専用の客船でのクルージングのようですよ。」


山田「安心しました。日本人同士であれば、感覚も似ていますからね。トラブルも少ないですよね。」


ファンさん「酒井さん、山田さん。No36の船が今回のクルージング船です。先ほどお伝えしたように日本人専用ですので、ご安心して下さい。お客様をお待ちする準備もできているようなので、今から乗船しようと思いますが、酒井さん、山田さん、よろしいですか。クルージング船の中には、レストルームもありますのでご安心ください。クルーも日本人対応に慣れたスタッフです。」


僕と山田とファンさんは、ポートへ出て、No36の客船へと向かっていった。


僕たちが乗船する客船はなかなか趣があり、なんだかオリエンタルな時代の客船といった印象を持った。客室の上は、オープンデッキになっているようで、そちらからハロン湾を眺めながらのクルージングは最高だろうと感じた。僕の気持ちが高揚してきた。船の大きさは、中堅クラスの大きさのようだった。


僕たちの客船の左手側には、すごく大きな豪華客船があった。その船は、宿泊ツアーの客船のようだった。バイキング船のような雰囲気の船だった。


ポートへ出た印象はというと、海に来たって感じだった。海から吹き付けるさわやかな磯の香を含んだ風が、一瞬で僕たちを包み込んでいった。僕は、ようやくハロン湾へ到着した実感がわいた。


船着場から客船までは、屋外の石段を歩いていく。石の色は白い、いかにもマリーンハーバーといった色合いの石を使っていた。その石段は、整備されている。港内の両端には、長く伸びた岬がある。岬までの道のりは、別荘のような白色の4F建てのマンションが立ち並んでいた。ただ、そのマンションには人が住んでいるといった雰囲気はまったくない。僕と山田とファンさんが乗船する客船から、クルーが手を振ってこちらへと誘導してくれた。


早速、クルーにナビゲートされながら僕と山田とファンさんが乗船する。客船の中は、床は木目の床でしっかりとした作りとなっており、テーブルにはランチ用のセッティングがすでにされていた。そういえば、ランチはイタリアンだったなと、僕は楽しみになった。僕は念のために腕時計を確認した。現在の時間は現地時間で、10時45分であった。出航時間は11時である。


客船内は窓も木枠でなかなか趣がある。僕たちの客室の上は、やはり登れるようになっており、デッキになっていた。このデッキからハロン湾を眺めると、きっと感動が生まれるといった期待が、さらに気分上昇を誘ってくる。山田の様子を見ると、彼もかなり興奮しているようで、視線があちらこちらへと移っている。僕は、山田もハロン湾クルージングを楽しんでくれると嬉しいと思った。


船内を見学していると、間もなく、出港の時間となった。確認すると時間は11時で、予定通りであった。日本人専用の客船には、僕と山田、ファンさん、それと他4組の日本人観光客と、それぞれのツアーガイドが乗船していた。僕たちも併せて計15名ほどが乗船している。船が港を離れるにつれて、さわやかな磯の香りの風が、僕たちの客室を通り抜けていった。


ハロン湾内は、湾内とうこともあり海風が、強くもなく弱くもなく、ちょうどいいといった感じであった。船内の客室はと言っても、レストランのようなところで各自、クルーに案内された席についているだけだ。僕と山での席は、進行方向左側で窓際のテーブル席である。窓はあらかじめ解放されており、木目の窓についているレースカーテンが海風になびいている。この景色もなんだか心落ち着く感じを受ける。


いよいよ今日のクルージングの始まりを告げてくる。僕と山田はいったんデッキへと向かった。僕たちの視線の先には、ゆっくりとポートを離れていく客船。陸地に残るポートスタッフが、乗客へ手を振っている姿が見える。その船内から僕と山田は、徐々に小さくなっていく陸を眺める。


山田「酒井さん、なんだかポートがだんだんと小さくなって見えてきて、俺、わくわくしてきちゃいますよ。なんでしょうね、地球ってと感じちゃいますよ。」


僕「この景色っていいね。これから旅が始まるって感じがヒシヒシとわいてくるね。この感覚は、僕は好きですね。」


僕と山田は席へ戻り、窓越しにハロン湾を眺めている。なんだか時間の流れの雄大さを感じるひと時である。空では飛びがゆっくりと飛行しており、その姿もまた絵になっている。ハロン湾にそびえ立つ岩山が目の前に連なってくる。僕は、さすが世界遺産になるだけの価値はあるとこの景色を見て思った。波しぶきも経つわけでもなく、湾内では穏やかな海の流れが体感できる。海水の透明度もかなりあり、海の底の岩や泳いでいる魚たちの姿が見えるのだった。


ハロン湾にそびえ立つ岩山は、石灰岩でできているのであろうか、白色をしており樹々はほとんど生えていない。まさに海の桂林と呼ばれる名にふさわしい景色である。


出港し30分ほどしたころ、時間は11時30分。イタリアンランチコースの開始になった。各テーブルでボーイがドリンクのオーダーを取り始めた。それと同時に本日のコースの説明を、各テーブルのボーイが行う。説明を聞き終え、まずは、白ワインで僕と山田は乾杯する。


コース内容は、まずは前菜である。ベトナム野菜?の盛り合わせサラダである。僕と山田は、潮風をほほに受けながらさわやかな気分に浸りつつ、前菜をほおばっていた。ベトナムへ来て思ったことがある。それは、野菜がおいしいということだ。海外では、生野菜は食べないようにしているが、ここベトナムで口にしたパクチーなどを含む生野菜は、口当たりも良く、シャキシャキを歯ごたえもある。おいしいという一言しかない。ランチの前菜が終了し、メインディッシュの伊勢海老の蒸した料理がテーブルに用意され始めた。


山田「酒井さん、このイセエビすごいですね。うまそうの一言ですよ。イセエビにかかっているソースもおいしそうですよね。」


僕「そうだよね。イセエビってなかなか豪華ですね。味が楽しみです。イセエビだから外れはないでしょうけどね。」


期待通り伊勢海老は、美味の一言に過ぎない。


次にスープも出された。スープは鶏ガラのコンソメ味であった。フォーの面も少々入っている。このスープの味付けも僕と山田の口には合っていた。というか日本人の好む味付けになっている。


スープも食べ終わった食事の途中、ハロン湾内で海上生活をしている人たちの船に近寄ってきて、僕たちにランチ中の船に乗り込んできた。


山田「これってパフォーマンスなんでしょうか。海賊に襲われている感じですよ。」


僕「少々びっくりですね。」と僕と山田は二人して、目が点になっていた。他の席からは笑い声がこぼれていたり、「あせった」という声が聞こえてきた。


僕は一瞬、海賊が乗り込んできたかってもう程だった。その近づいてきた船から客船への移り方は、プロとしか言いようがなかった。思わずサーカス雑技団でも見ているような華麗なアクションだった。客船に乗り込んできた彼らは、先ほどまで海で泳いでいた新鮮なカニ、シャコ、ハマグリ、エビなどをアルミのタライに生きたまま入れ、船内へ持ち込んできた。生きのよいおそらくブラックタイガーというエビだと思うが、アルミのたらいから飛び出て、木の床でバタバタはねていた。乗客がその生きのよい魚介類を選び購入し、船のコックがそれぞれのオー出された調理法で料理していただくといった流れであった。


僕と山田は、カニとハマグリを購入し、料理を頼んだ。料理法はお任せにした。いったいどんな味付けで出てくるのか楽しみであった。その料理とは、カニはグラタン風になっており、ハマグリは、酒蒸しのような調理だった。なかなかうまい。


山田「酒井さん、このカニのグラタン、マジうまいっすね。ハマグリの酒蒸しも超うまいですよ。俺、幸せを感じちゃいます。おいしい料理を口にすると幸せですよね。」


僕「ほんとだぁ。本当においしいですね。おいしい料理って本当、人を幸せにしてくれますね。」


購入した料理をそれぞれの席で食べ終わったころ、ボンゴレのパスタが運ばれてくる。もちろんベトナムのフランスパンを付いてきた。

最後のデザートは、イタリアンジェラートである。口直しにベトナムコーヒーか紅茶が出され、コースは終了となる。一通りランチコースの食事は、終わった。


食事を食べ終わるころには、港を離れるにつれて人込みの喧騒が薄れていき、本来の自然の風の音、潮騒の波の音、鳥のさえずりがゆっくりと流れる時間を演出していた。


改めて僕と山田も客船のデッキへ出て、太陽を浴びていた。リクライニングチェアーに腰を掛け、サンサンを降り注ぐ太陽の光を浴びながら、石灰石の岩山の間を船が進んで行く。時間の流れをゆっくりと体全体で感じ取っていたひと時である。


僕は幸せって、こんなことなのかぁって思っていた。自然の中にいることの、すばらしさを実感していたのであろう。リクライニングチェアーに横たわっていると、あまりの解放感に僕に眠気がおそってきた。


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