第13話 Past and present(過去と現在)

そうこうしているうちに、トイレ休憩の時間になった。ハノイ市内を出発してから、2時間程度経っていた。僕たちを乗せた車は、工芸品の販売所のような建物に入った。ハロン湾への観光客たちは、こちらの工芸品展でトイレ休憩をとるようだ。何台かの車と観光バスが停まっている。工芸品店の中には、観光客がたくさんいる。そこがトイレ休憩の場所だった。販売所とトイレの場所は離れており、トイレには少々人が並んでいた。トイレは観光客用に整備されており、きれいだった。販売されているベトナムの工芸品を横目で見ながら、先ほどのタイムトラベルのことを思い出していた。


先ほどの親子は現代の人ではないけれども、確かにあの時代に一生懸命に生きていた人たちである。その後、あの親子は一体どんな生涯を送ったのだろうか、と考えると少々メランコリックになってきた。


僕が少々感傷的になっていると、ガイドのファンさんが「酒井さん、山田さん、そろそろ出発しますよ。お手洗いはお済ですか。ハロン湾へ向けて。」と言われた。


僕「済ませています。」


山田「俺も済ませました。」


僕たちは再度4WDへ乗車した。目的地のハロン湾まで、一気に行っちゃうみたいだった。天気は上場で、ハノイ市内よりハロン県は、ガスの曇りがないかなり澄切った晴れ空になってきた。ハロン湾への道は、市内に入ったが相変わらず一本道で信号はない。 道路もきれいに舗装されており、ガタガタ揺れたりはしない。僕はなんだか外の空気に触れたくなり、車の窓を開けた。ベトナムの日が登り切る前の風を頬に浴びながら、車はどんどん走っていく。それと同時に僕と山田をハロン湾へと近づいていく。


ガイドのファンさん「そろそろハロン湾の入り口の街に入ります。今、クアンニン省ハロン市へ入りましたよ。この道からもご覧いただけるように、海岸沿いには、岩が立ち並んでいます。クルージングで沖へ出ると、もっともっとすごくきれいな水墨画のような景色が、酒井さんと山田さんをお待ちしていますよ。きっとね。」


僕と山田は、ファンさんのそのフレーズにますます興奮し心高鳴ってきた。僕たちを乗せた車が走っている道は、一直線の道だが右側には、海につながっている川が流れている。河口付近の光景になっている。海水と淡水の入り混じっているこの香りが、僕はなんだかほっとさせる。


確かに空は透き通った海辺の青空である。風も徐々に磯の香りを含んできている。ハノイ市内よりは、空気が澄んでいるように思えた。磯の香りが徐々に増してくる。この路へ沿って進むと、確実にハロン湾へ到着すると、僕は確信した。


ハロン湾へと続く河口風景を眺めそうこうしているうちに、僕と山田はようやくハロン湾のクルージングポートへ到着した。到着したポートの入口は、5つ星ホテルのような入口をしていた。その豪華な入口をくぐると、いろいろな国からの観光客の人たちでごった返していた。平日というにも関わらず、かなりの混雑ぶりだった。僕が山田を見ると、少々動揺している様子だった。


僕は、今回ツアーでハロン湾に来たことをラッキーだと思った。というのはこの混雑でのハロン湾クルージングチケットなどを個人で購入してといった手間を考えると、かなり時間が短縮されるからだ。チケット購入の窓口は英語表記されているため、理解には困らない。ただ、並んでいるが乱雑でどの位置に並べばよいかは、初めてだったら全くわからないと思った。今回はガイドのファンさんがチケットを受け取りに窓口へ行ってくれた。助かった。


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