第9話 The night way to the hotel(ホテルまでの夜道)

僕の滞在ホテルは、レストランから徒歩10分ぐらいだった。山田のホテルも同じぐらいの距離のようだった。僕と山田は、ホアンキエム湖から途中まで一緒に歩き、明日のスケジュールを再度確認して別れた。


僕は、振り返り山田の歩く姿を見つめていた。山田も振り返り、僕を見つけると、手を振って歩いて行った。僕はなんだか弟を見送る感じになった。


一人でホテルへ向かって歩いていると、東南アジアではよくあることだが、風俗の客引きのお兄ちゃんがバイクに乗って寄ってきた。客引きは、ハノイと書いてある白地に黒文字でデザインされていた。パンツはデニムの半パンであった。頭には黒のキャップを被っており、手には黒のヘルメットを2つ持っていた。僕はその手になんだか違和感を感じていた。


客引きは僕の肩に触れ、「社長さん、社長さん、いい若い女の子、紹介するよ。かわいいよ。」と寄ってくる。大抵の客引きは日本人を見つけると「社長さん」と寄ってきて声をかけてくる。そう考えているのと同時、客引きの男性から、触られた僕の肩を通じて「ぞくっ」と感じた。それはなんだか悲しさを含んだ思いだった。その感情がなぜそのように思ったかは、今の僕にはわからなかった。


ところで、海外ではよく日本人には「社長」という言葉が受けるとでも思っているのだろうか。そんなことを考えながら僕は気の赴くまま歩いていく。ハノイの夜道の空気は、その時は重く感じた。湿度が高いせいだろうか。それだけではないように感じた。


僕は「NO THANK YOU」で断り、客引きの誘惑をかわしていった。それでもしつこく客引きの男性は、僕に言い寄ってくる。そんなやり取りをしながら、どうにか滞在ホテルへ到着することができた。


実のところ、ホテルまでの道のりはなかなか複雑だった。というよりも日中みた景色と夜の景色では、夜の暗闇で全く異なり、少々道に迷ってしまったというのが本音であった。昼間の通りは、色鮮やかな色で彩られ、夜の通りは、漆黒の闇といってでもいいような暗さであった。街中の通りだから、光があっていいように思うが、その人工の光はオブラードに包まれている間接的な明るさに感じた。異次元からこの通りを見ているような気がした。


道端に座り込んでいる大学生風の人へ確認しても、英語では通じないし、困った、困ったと思いながら、ハノイの夜道を彷徨っている。なんとなくこっちの方角だよなって主追いつつ、運に任せて僕は歩き続けた。どうにかこうにかやっとのことでホテルへ到着した。自分ながら改めて己の動物的直感力には感心していた。

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