第8話 Dinner scenery(夕食の景色)

僕と山田はどうにか車とバイクが入り混じる道を渡り切り、目的地の今晩の夕食をとるレストランへ到着した。


そのレストランは、先ほどのホアンキエム湖のほとりにある。外観は赤茶けたレンガ造りである。この建物は湖の景観に非常にマッチしている。重厚感のある歴史を感じる建物であった。

フロントは、レトロモダンな印象の入口である。建物は2F建てになっている。僕と山田は、ボーイに導かれ、席へと案内された。レストランの中では、3組の外国人客が先に入店し、すでに食事を楽しんでいた。


僕と山田が案内された席は、湖のすぐほとりのオープンテラス席だった。席の近くが水辺だったので、すがすがしい清涼感がある。マイナスイオンもいきわたっている感じがした。席から水辺までは南国のヤシの木が植えられており、なかなか眺めの良い席だった。雰囲気は街のど真ん中にあるレストランとは思えないほど静かであった。


席に着くとボーイがメニューを運んできた。英語のメニューを出された。先ほどフォーを食べた現地の食堂のように、ベトナム語のメニューだったら困ったもんだけれども。


僕「雰囲気のいい席でよかったですね。まずは、ドリンクのオーダーをするけど、何にする?山田君。」


山田「ソフトドリンクでお願いします。」


僕「それじゃ、山田君、マンゴージュースにしてもいいですか。」


山田「それでお願いします。料理はお任せします。」

僕は、ボーイにドリンクと料理をオーダーした。


料理の前菜には、地元でとれたオーガニック野菜を使ったフレッシュサラダ、スープは牛テールのコンソメ味のスープにした。メインディッシュは、牛肉のフィレステーキにした。ソースはマスタード。焼き加減はミディアムレアである。もちろん、フランスパンをつけてである。ベトナムのフランスパンは、日本のフランスパンとは違い、モチモチしていると聞いたことがあったからだ。友人からはベトナムのフランスパンはおいしいと聞いていた。


食後のドリンクは、もちろんベトナムコーヒーだ。現地のベトナムコーヒーは、日本で飲むものと、どう違うのか楽しみでもあった。


料理がそろうまで、僕と山田はしばらくレストランの雰囲気に佇んだ。


そういえば、先ほどハノイ大教会で山田が僕に言ってきた霊感があるって、いったい、どう意図があったのかなって考えていた。


山田「酒井さん、すごく雰囲気のあるレストランですね。外国って感じがしてうれしいです。ご招待いただきありがとうございます。知らない異国で、飛行機の中でたまたま席が隣だった方と、街の中で偶然に出会い、今、一緒に夕食をとるなんて、なんだか不思議な感じですね。これが旅ってことですかね。これが旅の醍醐味ですね。」


僕「そうですよね、人の出会いは、一期一会ですからね。こういった出会いも、また一人旅の醍醐味でもありますよね。フライトから隣の席だったことも、何かの縁なのでしょうね。よくよく考えたらハノイ行きは、別に羽田国際空港からでなくてもいいのに、なぜ、そこで成田ではなく羽田を選んだって、偶然って面白いですね。あの時、フライトで席が隣同士にならなかったら、今でもお互いの存在を知らない者同士ですからね。よく言いますよね。偶然っていうものはなく、偶然と思っていることも実は、次元の違う世界では、必然であったとよく言いますよね。」


山田「ところで、酒井さんは今回のハノイへは何の目的で来られたんですか。一人旅ですか。」


僕「個人旅行だったらいいんですけどね。仕事も兼ねて今回はハノイへ来たんですよ。最初は、カンボジアのアンコール・ワットに行こうと考えていたんですけどね。今回は仕事のスケジュール調整が4日間しかつかず、アンコール・ワットへ行く際にトランジットするハノイへ渡航先を切り替えたんですよ。」


山田「ちなみに、酒井さんはどんなお仕事をされているんですか。俺は、大学生なんですけど。大学の授業で東南アジア歴史を専攻しているんですよ。初めての海外旅行なんですが、なんとなくベトナム ハノイにしちゃいました。」


僕「僕の仕事はいろんなことをやっている自由業ですね。ノマドワーカーですね。スピルチュアル風水師でもあり、文章書いたり、保険会社で営業事務したりね。以前は、金融機関で正社員として働いていたんですけどね。正社員という働き方は、少々、自分にあっていないと思っていたんですよ。大学を卒業し、すぐにインテリア雑貨の輸入し卸小売りなどの会社を経営していたんで、それでもまた始めようかなった思っちゃんですね。そこで2011年3月11日 あの震災の日に東京都庁の近くにあるNSビルに入っていた勤務先を地震の揺れに揺れながら、退職したって感じですね。あの日ことは、一生忘れることはないですね。でもって今は、自分の能力というか感性を生かして、仕事をしているって感じですよ。」


僕「僕のノマドワーカーの中の一つが、風水にかかわる仕事も携わっているので、今回その取材も兼ねて、ハノイへ来ています。」


山田「そうなんですね。酒井さんには、なんだか共感しちゃいます。こんな若い俺が言うのも超絶生意気なんですけど。酒井さんは、いままでどんな国へ行かれたんですか。俺は、初めての海外旅行なんで、このハノイしか知らないんですよね。まだ、ハノイへ来て一日も経っていないんですけどね。」


僕「僕は、東南アジア諸国がメインですね。大学の専攻がインドネシア語だったため、インドネシアへ行くことはよくあります。大学時代には、インドネシアのバンドゥンというところにある大学へ短期留学をしていましたよ。そこでインドネシア語のベースを学んだって感じですね。あとは、英語は小学校の時から塾へ通っていた程度ですね。そのぐらいの英語でも、なんとかビジネスで使用できるものなんですよね。シンガポール・タイ・マレーシア・フィリピン・台湾・香港ですね。そういえば、フィリピンへ行ったときは衝撃でしたよ。」


山田「フィリピンですか。そこで何があったんですか。すっごく興味があります。」


僕「フィリピンへは、スキューバーダイビングのため、大学時代に行ったんだよね。今までもほとんど海外へ行くときは、基本的には一人なんですけどね。そのころは、まだこんなに羽田空港が国際化されていなかったから、海外旅行の際には、成田国際空港から出国するのが一般的だったんだよね。フィリピンエアーで成田国際空港からセブ国際空港まで直行便だったので、5時間弱ぐらいでセブへ到着したんですよ。今回と同じように飛行機の中で、たまたま席が隣だった女子大学生2人と話をしたりして、フライト時間を過ごしていたんですよ。彼女たちもスキューバーダイビングでセブへ行くんだと言っていましたね。「同じですね」などとたわいもない会話をしていました。年齢も同じぐらいでしたからね。話も合いましたね。そうこうしているうちに、飛行機は目的地のセブ国際空港へ到着した。そこで日本人の愚かさを目の当たりにしたりといった出会いもありましたね。」


そんな話をしていると間もなく、僕と山田の席に料理が運ばれてきた。今回のメインディッシュは、牛のフィレロのステーキ。前菜は、ベトナムのオーガニック野菜の盛り合わせとテールスープ。もちろんベトナムとい言えばフランスパンも有名のためフランスパンも、もちろんオーダーした。テールスープは、すごく日本人の口にあうコクのある味付けだった。アジアの刺激的な香辛料の香りは、ほとんどしなかった。


山田「そうそう、俺にはベトナムっていえば、ベトナム戦争のイメージが大きいですが、酒井さんはどうですか」


僕「確かに、ベトナムというと過去のベトナム戦争っていうイメージが強いけど、最近では、ベトナムというとインテリア雑貨が先に頭に浮かぶなって。仕事で雑貨にかかわるお店もやっていますからね。」


山田「ベトナム雑貨は、日本人の好みにもあいますからね。俺は、バッチャン焼の陶器に超興味がありますよ。」


僕「そうなんですね。バッチャン焼、いいですよね。ところで僕は、明日、僕はハノイ唯一のパワースポットのハロン湾のクルージングへ行くんですよ。山田君は、明日は、どうするんですか?」


山田「俺ですか。特に決めていないんですけどね。ハロン湾クルージング、いいですよね。俺も行きたいと思っていたんだけど、一人ではなぁって思っていたんですよ。酒井さんが、差し支えなければ、同行させてもらってもいいですか。突然でずうずうしいですけどね。」


僕「僕はいいですよ。ただ、仕事も兼ねてだから、パワースポットの取材もありますがそれでも良ければ、一緒にいきましょうか?明日の朝、僕が滞在しているホテルへガイドが迎えに来るので、山田君の滞在しているホテルを教えてくれる?明日、山田君が滞在しているホテルへ迎えに行き、その足でガイドの車でハロン湾まで一緒にいきましょうか。ツアーは閑散期なのでかなり開いているといっていたので、きっと大丈夫だと思いますよ。ハノイ市内からハロン湾までの移動は車になります。所要時間は10時間ぐらい考えていたのがよさそうですよ。それスケジュールでもいいですか?」


山田「是非とも、よろしくお願いします。ツアー代はいくらですか。」


僕「ツアー代は、当日で大丈夫ですよ。イタリアンの昼食代込みで1万円ですね。日本円ですけどね。優雅にクルージングはいいよね。山田君にも天気もよさそうだから、きっといい思い出になると思いますよ。山田君の滞在ホテルの名前と連絡先を押しておいてくださいね。」


山田「やったぁ。ホテルはこちらになります。」と、子供のようにはしゃぐ山田の姿が、僕にはなんだかうらやましく思った。


僕と山田は食事を終わらせ、明日のスケジュールも確認しレストランを後にした。それぞれのホテルへと向かった。

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