第7話 Together(一緒に)

僕と山田は、二人並びハノイの旧市街地を歩いて行った。お互い、改めて自己紹介をした。

山田「そういえば、きちんと自己紹介をしていませんでしたね。名前は飛行機の中でお伝えした山田優也っていいます。俺、大学3年です。就活はこの旅行から帰国したら、本格的にはじめようかなって感じです。就職しようか大学に残って東南アジアの文化、歴史を大学院で研究しようかとも思っているんですよね。ベトナムってなんだか懐かしい感じがしますよね。」


僕「僕の名前は酒井拾膳といいます。ベトナムって山田君が言う通りでなんだか懐かしい感じだよね。フランスとアジアの雰囲気がうまく混じり合っている感じが、いい雰囲気を醸し出しているよね?良くも悪くも歴史を感じとれる国だよね。」


山田「そうですよね。俺は、本当に今回ベトナムを選んでよかったと思いましたよ。まだ、俺の旅は、はじまったばかりですけどね。」


僕と山田はホアンキエム湖からは、まずはディティエンホアン通りを直進する。この通りを渡り切るのが至難の業であった。車とバイクの多さに驚きである。その隙間を縫うように渡り切った。その後、パンチョン通りを通過していく。


通りの両サイドにはガイドブックに掲載されているようにカフェがたくさん営業している。景色は街路樹がハノイの南国の日差しを遮っている。そんな景色を見ながら歩いているうちに、ハノイ大教会へ到着した。ちなみのハノイ大教会までの道のりは、カフェが多く点在し、まるで表参道のような雰囲気だった。ホアンキエム湖からハノイ大教会までは、徒歩13分ぐらいだった。


山田「ハノイに着いて道を渡るのに、俺、一番苦労しています。どのタイミングで渡っていいのかわからいないんですよ。バイクや車が、ひっきりなしに途切れることなく通っているじゃないですか。あれ、怖くてなかなか渡れないんですよ。日本じゃありえないですよね?」


僕「その雰囲気に慣れないと渡るタイミングがつかめないよね。僕は、何度が東南アジアへ来ているから、なんとなく渡っちゃいますけどね。ポイントは、道に出て車やバイクの運転手に手をあげ、通してもらうんですよ。そうするとわりと渡れるんだよね。でも、気を付けないといけないのが交通事故だから、そこは周りの状況を判断してからだね。」


山田「そうなんですね。それはいいこと聞いちゃいました。勉強になりました。この交通量が、俺の初めてのカルチャーギャップですよ。」


僕と山田がこれから訪れるセント・ジョセフ教会について今から少々ご紹介してみたいと思う。


1886年仏教寺院の跡地に建てられている。仏教寺院の跡地にキリスト教の教会をたてるのって、その感覚は僕にはわからないが。ハノイで最も大きな教会である。だから、通称、ハノイ大教会と言われて、今でも市民へ慕われている。今では、教会の知名国は小学校が建っている。


その後、1900年初頭に現在、存在している二つの塔を持つネオゴシック様式に改造されたようだ。ネオゴシック様式のため、なんとも重厚な雰囲気がある。


教会の正面近くまで来ると、僕はその建物の大きさに圧巻されてしまった。


僕は教会の入口をしばらく眺めていると、実際には扉はしまっているのだが、僕の頭のイメージの中で扉が開き、中から修道院の10代後半の女性が入っていく映像が頭に浮かんだ。まぁ、教会だから過去に修道院が出入りしているのも当たり前で、修道院の女性の思いが時代を超えて、僕へ伝わるってこともあるよなと思いつつ、建物のすばらしさに感動していた。


建てられた当初は、とてもきれいな色合いだったんだろうなって思いに更けていた。今では、都会の煤にまみれているようでくすんで見える。


突然、山田が「酒井さん、霊感ありますよねって。」と言ってきた。


僕は、山田の直球すぎる質問に少々動揺してしまった。


僕「どうして?僕の場合は霊感っていうよりは、動物的感かな?子供のころから直感は鋭いですからね。」


山田「今、俺にも見えたんですよ。修道院の10代ぐらいの少女が、この扉の中へ入っていくところが。」


僕「山田君は霊感あるの?」


山田「あるかどうかわかないですけど、たまにイメージが俺に伝わってくるんですよ。先ほどの俺のイメージの中では、酒井さんがハノイ大教会の扉の右隣に佇んでいらっしゃったんですよ。特にその少女は、俺に何かを伝えたいという空気はなかったんですよね。」


僕「僕には、山田君が扉の左隣に佇んでいるのが伝わってきたんだよね。でもその少女からのメッセージは、特には伝わってこなかったんですよね。」


そういえば、僕が飛行機の中で彼を見た第一印象が、雰囲気のある子だなって思ったのは、実は僕と同じ空気感があるからだったからだとここで改めて実感した。山田とは、はじめて出会ったんだけれども、初めてじゃない感じだった。なかなかそんな風に思える人って、少ないんだよなぁって、僕は思っていた。この時は、まだ山田との今後の付き合いの展開などは予想さえしていなかった。


僕「ハノイ大教会は、なかなかの歴史を感じる建物だよね。圧巻だよね。ベトナムの歴史を感じ取れる存在だよね。」


山田「そうですね。世界の歴史には悲しさも含んでいますね。過去から現在のハノイの空気を感じ取って、今に現存していますね。」


僕は、なかなか芸術的センスというか直観力のある子だなって山田を思った。それと同時にハノイ大教会の鐘が鳴り始めた。口コミによると鐘の音の音量が大きくうるさいと聞いたことがあるが、僕にはこの鐘の音は、なんだか心安らぐ音に聞こえてきた。


僕「この鐘の音はいい音だよね。なんだか気持ちが落ち着きますね。日本の寺院の鐘の音も同じ感じがします。こういう音って、僕たち人間へ届く音域に何か影響があるんでしょうね。ところで、山田君は、今晩の夕食はどうするの?」と尋ねた。


山田「俺もこの鐘の音、心安らぎます。酒井さんがおっしゃる通り鐘の音色って、俺達人間に届くとなんだか安らぎを与えるんでしょうね。俺、まだ、夕食をどこで食べるか決めてないんですよ。酒井さんは、決めていますか?良ければ、ご一緒してもいいですか?」


僕「いいよ。食事は一人で食べるのもいいけど、連れがいた方が楽しいもんね。先ほどのホアンキエム湖のほとりの雰囲気あるレストランにしようと思ってたんだよね。そこでもいいですか?」


山田「ぜひよろしくお願いします。そこでいいですけど。高くないですかね?俺、学生なのであまり高いと。」


僕「いいよ。せっかくの旅の出会いだから、僕が御馳走するから安心して下さい。」


山田「それはだめですよ。」


僕「僕も学生の時には、先輩や年上の人にはよくご馳走になったりしていたし、その番が今、自分に来ているんだなって思っているだけだから。それに山田君はまだまだこの旅はしばらく続くのだから、海外では現金が頼りですよ。気にしないで、遠慮なくご馳走されてください。」


山田「ありがとうございます。それじゃ、お言葉に甘えて御馳走になります。」


僕は、山田の素直さと謙虚さになんだか癒された。

僕「食事はなんでも大丈夫?好き嫌いがあるなら、早めに言ってくださいね。」


山田「俺、特にないです。」


僕と山田は、ハノイ大教会からホアンキエム湖までの道のりを、ハノイの街の騒音と東南アジア特有の湿度を含んだ熱帯雨林の空気を味わいつつ、再度歩いて行った。ハノイの街並みは、オリエンタルな雰囲気と東南アジアの混沌とした雰囲気の活気ある空気感が入り混じっている。そんな空気感がある路地周囲からは、僕へなんだかワクワクする感覚が伝わってくる。


僕と山田はホアンキエム湖のほとりへ渡るタイミング伺いながら、通りの交差点で待っている。その時に僕は昔のベトナムへと、再度タイムトラベルしている感覚へ陥った。

そのとき、山田が僕へ声をかけてきた。


山田「酒井さん、次のタイミングでこの通りを渡っちゃいましょうよ。渡れちゃいますかね。」と、声をかけてきた。


その声で僕は我に戻った。街に漂っていた香草の香りに誘われて、過去へタイムトラベラーしそうになったようだった。


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