第5話 Invitation of Hoan Kiem Lake(湖からの導き)

僕は、早速、ハノイの旧市街地を散策するため、ホテルのフロントで部屋のkeyを預ける。ホテルの玄関の扉を開ける。僕は、いよいよベトナム ハノイの世界へ導かれ、一歩足を踏み入れていく。


ホテルの前の道であるバッタン通りを右へ進んだ。僕は導かれるままにこのハノイの路地を散策してみる。路並みに沿って観光客用の土産物店や、カフェが立ち並んでいる。その路並みを僕はハノイの空気を感じつつ、南国ハノイの空から降り注ぐ太陽の光を浴びながら歩いていく。


途中、ハンガー通りとの十字路に到着した。そういえば、おなかもすいてきたなぁっと僕は思った。どこかの店に入って軽く食事でもとろうと思う。小腹を満たすには何がいいのだろうかと考えていると、そういえばここはベトナムである。という子であれば、まずは、ベトナムローカルフードと言えばフォーだと直感した。直感というよりは、王道だと言い換えたい。でも、どのお店へ入っていいか、わからなかった。


ホテルを出て15分程度歩いた。十字路の交差点の角に、観光客用ではない現地のベトナムっ子が利用している食堂のようなお店が僕の目に入った。なんだかわくわくする店構えである。ベトナムって感じが、おもいっきり醸し出されている。


そのお店はというと、よく言えばオープンカフェのようだったが、壁がなく、シャッターを上げて営業している店だった。路面で営業している感じだ。この雰囲気に僕はそそられていく。何も考えずに、直感でその店へ僕は足を踏み入れた。


店に入ってみると、バックパッカー風なヨーロッパ系の外国人男性3名のグループと現地のおじさんたちの7名のグループ、店の外の路上ベンチ席には、ベトナム人の若者の4人グループが飲み食いをしていた。


店員はもちろんベトナム人であった。若い男性1名、若い女性2名がオーダーをとっていた。店のテーブルと椅子はといえば、日本でいうところのキャンプ用品のような簡単な感じのものだった。子供のころ、ママごとで使っていたようなブリキのイスに座り、プラスチックのテーブルが目の前にある。そんな昔懐かしいノスタルジックな雰囲気の中でメニューを頼んだ。


店員が持ってきたメニューをみた。僕は「やばい」と思った。ベトナム語のメニューが出てきたからだ。ベトナム語は話せないため、英語でメニューを再度依頼すると、英語のメニューが出てきた。少々ほっとしたが、束の間、今度は、メニューは読めるが、いったいどんな盛り付けの食べ物かわからない。料理の写真がないのだ。メニューにFHOと書いてあるところを見て、とりあえず、スタンダードっぽいメニューの最初に書いてあるフォーを頼んだ。フォーが出てくるまでは、いったいどんなものが出てくるのか、僕の中では未知の不安と楽しみが交差していた。


お店の店員の英語は片言、ベトナム語でないと通じないようだった。僕はドリンクは用心してコーラを頼んだ。コーラはどの国で飲んでも同じ味だなって思いながら、フォーが出てくるのを待っていた。


フォーが出てくるのを待っている間、僕は路地の景色からハノイの現地の空気を感じ取っていた。道路では、規則性のない無秩序な運転のバイク。車の横を無防備に通るバイク。たまに逆走しているバイクもある。そのバイクを注意する車からのクラクションの音。あちらこちらで聞こえてくるベトナム語の日常会話。幻想と現実を彷徨っている感じになってくる。


ふと思ったことがあった。昨日の今ごろは、日本で仕事をしていたなぁって。その僕が、今、異国ベトナムのハノイで、道端の食堂でフォー食べようとしている。なんだか不思議な感じに陥った。


そうこうしているうちにオーダーしたフォーが出てきた。フォーのスープは、鶏ガラベース。スープの色は澄んでいる。具材には、牛肉のバラ肉とパクチーが乗っているシンプルなものだった。


この後はどうしようかと地球の歩き方を読みながら、出されたフォーに舌づつみを打った。そのフォーは、見た目とは全く正反対で本当に味が良く、僕好みのやさしい味付けだった。薄口でやさしい味付けが、日本人の口に合ったみたいだった。


スープを一口飲んだとたん、僕は思わず「うまぁっ」と声を出してしまった。フォーに舌包みを打ちながら、ガイドブックを読んだ。今から店を出て、どこへ行こうかと行く先を考えていた。


そういえば、ハノイ市内には何個か湖があり、その中でも、最もにぎわっているといわれる湖のホアンキエム湖がある。まずはそこに行ってみようかなって思った。僕は早々に食事を終えて会計を済ませた。会計時には、ベトナムの通貨であるドンは羽田空港内であらかじめチェンジしていたため、現地についてお金には困らなかった。現地通貨の価値がまだいまいちわからない。このフォーとコーラも高いのか安いのか、また観光客だから、没れているのかもわからない。少々不安は残った。


ハノイ旧市街地の地図を片手に持ちながら、なんとなくこっちかなと思いつつ、僕は何かに導かれるように歩き始めた。店の前の通りであるランオン通りを右手へ進んでいく。


入り組んだ道にはバイクや車が無秩序の通り、その間を人間がすり抜けるという感じだ。旧市街地の路地をゆっくりと眺めながら20分程度歩く。と、目的地のホアンキエム湖に到着した。湖へはランオン通りと交差するチャーカー通りをひたすら直進して到着した。ホアンキエム湖はハノイ市街の中心にある穏やかな姿の湖であった。


ここで少々ホアンキエム湖をご紹介したいと思う。


ホアンキエム湖とは、還剣という意味だという。別名ホー・グオム(剣湖)と呼ばれ、緑豊かな湖畔は、ハノイの人々の憩いの場となっているようだ。もともとは、ホン河の浸食でできた三日月湖とも考えられている。


16世紀頃には、ふたつの湖に分かれていて左望湖と呼ばれていたらしい。ということは、左右対称の湖がもう一つあるはずである。もう一方の右望湖は、現存しないとのことだ。


湖へ到着した時間帯は、夕方まで陽がある時間帯だった。この湖は、おそらく夜になるともっと人が多くなり、ごった返す印象を持った。


聞くところによると実は、ホアンキエム湖の伝説というものがあるらしい。ミステリアスな湖で、少々、僕の興味を引く。


1428年、黎朝の始祖、レ・ロイ=レ・タイ・トーは、湖に棲む亀から授かった宝剣で明軍を駆逐し、ベトナムを中国支配から解放したという。平和が訪れた頃、再び、亀が姿を再度現し、剣を返すよう啓示され、湖の中の小島で剣を返した。現在、湖の南に小さな亀の塔が建っている場所こそ、レ・ロイが剣を亀に奉還したと言い伝えられている所であるといわれている。


僕はホエンキエム湖へ到着した際に、湖の中にあるその島になんだか興味をひかれていた。その直感は、もしかしてミステリアスな空気感が僕のインスピレーションを刺激したのかもしれない。


興味深い歴史を垣間見ながら、ホアンキエム湖の散策開始だ。今晩の夕食は、この湖の湖畔の店にしようと思い何件かある店をのぞいてみた。お店を物色しているとなかなか雰囲気のある店を一件発見した。2F建てのレンガ造りでオリエンタル調の建物の店が目にはいった。夕食はそこにしようと決定した。僕の動物的感が働いた。


その時は、まだローカルタイムで16:00だった。じゃ、夕食までに時間はまだあるため、もう少しだけせっかくの湖を見ながら、ハノイの空気を感じ取ってみたいと思った。湖の植栽の木には、日本でいうところのクリスマスネオン用のライトが設置されている。これは、絶対、夜はきれいなはずだ。夕食の店からも湖を鑑賞できる。


湖には、玉山祠 デン・ゴックソンと場所がある。なんだが風水的にパワーがあると、これまた僕は直感がした。今回の旅の目的でもある風水取材もあるため、とりあえず、訪れてみることにした。


その祠は、湖に浮かぶホアンキエム湖の信仰の中心地でもあるようだ。中国人やヨーロッパ人などの外国人の観光客もその辺りに多くたむろっていた。日本人観光客は僕一人だった。まぁ、繁忙期だったら日本人も多かったことだろう。今は、閑散期のため僕一人である。


僕はその祠までの入口の門を通過し、極楽浄土へ続くような印象の朱色の橋を渡り、祠のある小島へとたどり着いた。湖の外周とその祠の空気感は全く違った。マイナスイオンでプラスのエナジーを感じる。


祠には、ホアンキエム湖の守り神のスッポンのはく製があった。はく製の展示は、ガラス張りのケースの中に、スッポンが展示してあるといったものだった。実は現在もこの湖には100年近く生きているスッポンが生息しているらしい。なんだか古の悠久の時間の流れを感じた。


僕がそのスッポンのはく製を見ていると、はく製から声が聞こえてくような印象を受けた。


そんなことはないだろうと僕は、そのはく製の絵を通過しようとすると、足が急に動かなくなった。金縛りである。金縛りにあっているのだが、僕はなんだか怖いという気が全く感じなかった。逆になんだか穏やかな気を感じていた。はく製からの伝わってくるインスピレーションと湖の中からのインスピレーションの両方を感じ取った。


はく製からは、「よくぞ、ハノイへ訪れてくれてありがとう。」という印象だった。さらに湖からは、「ベトナムの過去を知り、日本へ伝えてほしい。今回の旅行で知り会わなければいけない人と出会う。」というものだった。


この時の僕には、この二つのインスピレーションの意味は分からなかった。


僕が金縛りにあっている間、はく製が展示しているあたりには全く人の気配を感じなかった。意味深なインスピレーションを受け、僕は祠からのエナジーを感じつつ、小島の散策を続けた。


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