紙飛行機とつぶやき
@blanetnoir
白い紙飛行機が届いた。
開けばメッセージが読める、写真付きのやり取り。
ほんとうは、写真がメインなんだけど。
届けたい相手に確実に風が吹いて、なんなら既読確認までできるから、人を繋ぐSNSは細やかにできている。
そんな機能の紙飛行機が、昔の友だちから届いた。
メッセージを読み、返信を同じように紙飛行機で飛ばして。そんなやり取りを繰り返しながら、ふと中学生の頃、授業中にこっそりしていた手紙のやり取りを思い出した。
小さなメモ帳に、他愛もない言葉やイラストを書いて手渡して、それが何となく楽しくて当たり前の生活だった、あのころ。
日々のひとり言のような、人に聞かせる必要のないツイートも友だちに伝えたい、そんな時期だった
成長して、そんなひとり言はSNSに行きどころがかわって、
素性の見えない人が無数に集まる世界の一角でつぶやくことを覚えた。
ひとり言はひとりで消化する。
振る舞い方で、誰も見ていない場にもできるし、
誰かがみている状況にもなる。
自分が無数の混沌とした人の集まりの中で、どうありたいかが選べる世界になった。
大人のマナーと、何らかの欲から生まれる寄り集まり、仲間とのコミュニケーションと
誰かの思いや世界を覗き見あう構図が隣り合って。
気安さから、本当の心の深淵まで書き連ねることも起きうる場となった。
そんなツールが生活に溶け込んで何年たっただろう。
私は仕事を忙しくこなしながら好きなことして気ままに暮らす生活を楽しみ、彼女は地元を離れて幼い頃からの夢だった結婚をして、家庭を築いた。
生活が変われば会う機会も減り、でもそれがとても自然なことで、特に寂しさもなくいたけれど、会えば会ったで普通に話すし、友だちとしてのあり方は変わらずにいた。
時折つぶやきの世界でお互いにつぶやきを見つけて、近況をなんとなく知っている距離感が、ちょうど良かった。
紙飛行機で「会おう」と誘われ、「いいよ」と返したあと。
つぶやきの世界にかえってふとタイムラインを見ていたら、
彼女のつぶやきが目に入った。
旦那さんとデートできればそれで十分、
それが最近はなくて物足りないという言葉。
少し思考が停止する。
私との紙飛行機をやり取りしたのと同じ時間軸で、
旦那さんと2人で過ごす時間が欲しい、とつぶやく彼女は。
なんで私に会おうと誘ったのかな、と戸惑った。
ああでも、好きな人で空いた穴を仕方なく友だちで埋めようとするところ、昔からあったかも。
そんなことを思って、笑った。
ひとり言を友達に伝えるか心の中にとどめていた幼かった時代には、
こんな誰かの正直すぎる思いを言葉にされて堂々出くわすことなんてありえなかった。
これがあと数年前に起きていたら、
きっと私は彼女の都合いい存在になりたくないなぁなんて、会う気をなくしていただろう、けど。
今は交わした約束は守る“大人のマナー”を身につけたから。
交わした約束の義理を果たすくらいの気持ちでいればいい、そう思えるようになった。
紙飛行機と、つぶやきと。
おとなになった私が微笑む。
「また会おうね、
お互いの都合のいいときに。」
紙飛行機とつぶやき @blanetnoir
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます