復讐の未亡人

第13話

爆睡しました。婚約無効を、使用人さんたちやルディ君(おそらくあまり意味はわかってません)そしてリリアちゃんと、ひとしきり祝った後、目の下の隈をなくし、睡眠を取り戻すべく、ベッドに横たわりました。


起きたら翌日昼でした。貴族の奥方の普通起床時間かもしれませんが、久々の熟睡です。睡眠は取り戻せましたが、隈は、消えてません。さすがアラフォー、37歳。貴族年鑑により、一気に5歳も歳をとってしまったので、これは仕方がないのかもしれませんが。ああ、この時期の5歳は大きい。


リリアちゃんは既に起きており、書斎でルディ君の面倒を見つつ、お勉強をしていました。流石に回復が早いなぁ。夏休みの間に、遅れた勉強を取り戻すつもりと言っています。


「リリア、国王陛下にはああいったけど、あなたの結婚を急がすつもりはないのよ。」


リリアちゃんは昨日の勝利に、まだ満面の笑みをたたえています。


「勉強の遅れもありますし、今は婚約や結婚は考えられません、お母様。」


「そうね。でも、陛下に、相手を急いで探すと申し上げた以上、その振りはしなくてはならないと思うのよ。午後、喪が開けたら着る、明るめのドレスを作りに行きましょう。新学期用のは、そろそろ準備しないとね。」


オートクチュールは時間が掛かります。


「お母様、僕は?」


ルディ君も会話に参加です。


「一緒に行く?マダム・メイソンのお店だから、退屈しない?」


大抵の男性がそうであるように、ルディ君は途端にお買い物に興味を失ったようです。


「お留守番していてくれたら、ウッドベリー商会に寄るから、何かお土産に買ってくるわよ。」


謎の手付金についても、ついでに調べてくるつもりです。


「じゃあ、ソルジャー・ジョーの新しいセットが欲しいです。」


「はい、はい。」


手付金の返還があったら考えましょう。


+ + +


リリアちゃんと私は、まずはウッドベリー商会に立ち寄りました。商会の副社長は、まだ、20代の息子さんのリプリー・ウッドベリー氏が勤めていました。


「スタイヴァサントの奥様、わざわざお越しいただかなくとも、私共の方から出向きましたものを。」


しっかり、いらない物ならキャンセルするつもりで来てますから。


「いえ、ついでがありましたから。主人が亡くなってから、色々バタバタしていたので、うっかり手付金のことを失念していましたの。遅くなってごめんなさいね。」


迎え撃つウッドベリー氏は、


「いえいえ、私共も2度ほどご指示を仰ぐためお手紙を差し上げたきりで。大変申し訳ございませんでした。」


と、ちゃんと連絡いれました、アピールをしてきます。


その上で、控えているスタッフに、スタイヴァサント侯爵がオーダーしたものを持ってくるよう言いつけました。


「なかなか珍しいものですので、入手も大変でした。」


戻すのは無しで、というニュアンス、ありありです。


「あら、何を注文したのでしょう?生憎主人から何も聞いておりませんでしたので・・・・」


私も、知りませんよ、要らなければ買いませーん、を言外に含めて返事をします。


スタッフが木箱を両手で抱えて戻ってきました。横幅が60センチぐらい。そんなに大きくはないのですが、結構な重さはあるようです。


好奇心にかられて、リプリー氏が開けた箱を覗くと


「!!」


かつて会計士協会の展示物で見たことがあります。ずばり、計算機だわ。と、言っても足し算しか出来ない、金属製の歯車式のもので、各欄に数字を打ち込んで、レバーを回すと、桁送りを含めて、自動計算してくれる機械ですね。


「奥様、これは、計算機と言うものです。侯爵が是非ともとおっしゃるので、取り寄せたのです。」


と、言うのは控えてくれたようです。


しかし、なぜ?領地の管理のための帳簿ぐらいなら、そんなに量がないので、手で計算した方が早いぐらいです。

職場で使うためなのでしょうか。それなら、国庫の経費で買ってほしいですね。私費で購入して自宅に置くとは公私混同です。


「わかりました。主人の最後の買い物です。私共で引き取らさせていただきますわ。」


いざとなったら、財務省に買い取ってもらう手もあるかしら、と考えながら、残額を支払って、箱を馬車に運び込んでもらいました。


ルディへのお土産もちゃんとリリアちゃんに見繕ってもらい、再び馬車に乗ると商会からさほど離れていないマダム・メイソンの店へ向かいます。


そこは・・・修羅場でした。

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