第14話

リリアちゃんと店のドアを開けた途端聞こえてきたのは、ヒステリックな叫び声でした。


「だから!今はお支払い出来ない、と言っているでしょう!」


マダム・メイソンご本人らしい。


「あんたのところの信用で掛け売りさせてもらってるんですよ。こんなに支払い遅れたら、信用もへったくれもない。悪いけど、もう商品卸すのやめさせてもらいます!」


「何がなんだか、わからないから、ちょっとだけ待って、ってお願いしてるんです!ほんのちょっとでいいんです。」


ここで私たちに気がついたようです。マダムはさらに言い募りました。


「家には、注文にいらっしゃるお客様が引きを切らないんです。商売は繁盛してるんです。お支払いはちゃんとします!」


ですが、男性も引き下がるつもりはないようです。


「だったらなんで支払いが遅れてるんですか!」


男性は、掛け売りの手帳らしきものをマダムの鼻先に突き出しました。それを手で押しのけるとマダムは、こちらに向かいました。


「スタイヴァサントの奥様、みっともないところをお見せいたしまして、申し訳ございません。少々お待ちいただけますか?」


口元が震えて、手をもみ絞っています。


ですが、男性は、その態度に余計腹を立てたようです。


「こちらを先にしろ!」


ふむ。


「そちらを先にしていただくのは構いませんが、直ぐ解決するのかしら?ずっと待たされるのはかなわないわ。一体何事ですの?」


マダムが言葉を選ぶように説明を始めます。


「いつもなら主人がお会計を担当しているのですが、生憎出払っているんです。だから、主人が戻るまで待ってくれって、お願いしてるんですが。」


しかし、男性は、この説明に納得していないようです。


「一度や二度のことではないんだぞ。生地の卸しの支払いは、もう三ヶ月も遅れてるんだ!こっちだって、早く支払ってもらわなけりゃ、どうしようもないところまで来てるんだ!輸入元の商会から矢のような催促うけてるんだぞ。あんたのところと共倒れなんて御免蒙る!」


「ご主人は、何処へお出かけなの?」


とりあえず、男性の怒りの鉾先をマダムから移動させようと私はマダムに話かけます。マダムはもう、取り繕う気力もないようです。


「それが・・・一昨日から戻って来ないんです。今、人をやって、必死に探してるんですけど。」


ありゃー。


「いつも売り上げをしまっている金庫にあるはずのお金が見当たらなくて。」


ありゃ、りゃー。


「帽子係の縫い子も、いなくなっちゃったんです。」


ありゃ、りゃのりゃー。

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