第3話一日目

この状況がおかしいというのは重々わかっている。こんな夜中にしかもボートで海から流れ着いた人間なんて怪しくて仕方がない。

けれど私はもうすぐ死のうと思っているわけだし、ここで死んでも特に大きな後悔があるわけではないので、彼に少し話を聞くことにした。


「なんでここに来たの。」

彼は少し驚いたような顔をした。深夜に急にやってきた自分から逃げないのが不思議なのだろう。

でもその顔を見ている限り、そこまで悪い人間のようには見えなかったし、今まで見た人の中にあった何かを恨むような感情は見当たらなかった。

少しの間驚いたあと、彼はゆっくりと話し始めて、聞いているうちにいろいろなことが分かった。私と同じ年であること、血のつながった家族はいないこと、そして、

自殺しようとしてこの島に来たこと。

別にどこでも良かったと、だれにも気付かれず一人で死んでも良かったと言っていた。

自殺しようとしている日は私の死ぬ日の前日だった。何となく、彼は私と似ているような気がした。でも、彼と私には全く違うところが一つあった。感情豊かなのだ。話を聞いているときも思っていたが、泣きそうになったり嬉しそうに笑ったり、よくこんな短時間にそんな感情を表せるな、なんて、

少し羨ましくもあった。彼の目は真っすぐで、今まで私が殺した人間とも、そして私とも違った。


ふと、この人といると私も感情を感じられるのではないか、と思った。

「ねぇ、死ぬまで行くとこないんでしょう

うちに来てもいいけど」

と、私が言うと、彼はさっきよりもまた驚いたような顔をした。

私だけ言わないのも何かを隠すようで良くないと思ったので、私もそろそろ死のうと思っていることを伝え、自分は感情が薄いので、

一緒にいても楽しくはないと思うけれど、

ということも伝えた。

そこでやっと、まだ訝しんだような顔をしながらも、彼は小さく頷いたあと、ふわりと笑ってありがとうといった。

まだ真っ暗な夜と海にかこまれたなか、

自分でも気付かぬうちにあった暗闇への恐れが少しだけ薄らいでいた。

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