影宮

届かない

「愛してる。」

 君が何度も言う。

 愛して欲しくて何度も。

 愛に決まった形はない。

 歪んだ愛も、正しい愛も、愛であることには変わらない。

「愛してる。」

 僕が言う。

 愛がわからないままに何度も返す。

 愛を受け取っているのではなく、突き返してるように何度も言い返した。

 君の愛が、僕の愛が、愛というものがわからないんだ。

 愛してるつもりでも、愛を見つけることができなければ、愛していないことにされる虚しさ。

 母親の愛情さえ受け取れないで、僕は君の愛情をどうやって受け取ればいい?

 愛なんて形は決まっていないけど、君の愛はきっと形にはなっていないだろう。

 言葉だけ音だけの愛の表現を、どうやって受け取って信じてやればいい?

 愛してる、愛してる、軽いのか重いのかわからないほどに、繰り返される愛、愛、アイってなんだろう。

 好きと愛の違いはわかるのに、意味としての違いしか見つけられない。

 君のソレは愛なのか、好きなのか判断ができないんだ。

 君が好きと愛の違いを知っているのかもわからない。

 愛は美点も汚点も含めて抱き締めることで、好きはただ美点だけを抱き締めているに過ぎない。

 僕の汚点に見て見ぬ振りをしてるのはどっち?

 君の美点しか見れない僕にはわかりもしない。

「愛してる。」

 君が言った。

 聞き飽きるほどに。

 僕は君の愛が怖いのかもしれない。

 愛に含まれたその先の未来を、僕はどうしてあげればいいんだい?

「好きだ。」

 僕は言った。

 言い換えてしまうほどに。

 愛という重さを抱えきれない。

 愛してる、愛してる、アイシテル、もう言わなくていいよ。

 愛して欲しいの、誰でもいいの?

 なら、僕を壊して。

 痛くなるほど抱き締めても、振りほどくことさえしない、君は一体?

 愛とはなんだ、と叫んでみても。

 意味としての愛しか返ってこない、それどころか答えなんてなかったりもする。

 意味としての愛と君としての愛は一致するのだろうか?

 僕としての愛は、何処にあるのだろうか。

「愛してる。」

 君が言った。

 懇願するように。

 迷う僕を、引っ掻くように。

「愛してる。」

 僕が言い直した。

 思考を停止して。

 君が望むような愛はきっとここにはないんだろう。

 愛してる、あいしてる、アイシテル。

 繰り返し言う意味は一体?

 僕は愛を知らないまま、君は愛を叫ぶまま。

 愛なんて感情を探り当てようと、君に触れた次の瞬間には、君はいなかった。

「愛してる。」

 記憶が言った。

 思い出せというように。

 君の愛が、今更、見えてしまった。

 僕は走った。

 走って、愛を呼んだ。

 君は帰らぬ人となって、僕は愛の行き場をなくしてしまった。

 愛してる、愛してる、愛、君を愛してた。

 愛なんて形は決まっていないけど、愛に気付き方なんてないけれど。

 今更、愛を意味としてではなく理解していた。

 君は戻らない。

 愛は返ってこない。

 僕の番だ、愛を懇願しよう。

「愛してる。」

 僕が何度も言う

 愛して欲しくて何度も。

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影宮 @yagami_kagemiya

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