第44話 害悪は、僕が全て道連れにします
その少し前、ケイはロロに連れられてやっとベルリンに着いた所だった。グェンは密輸船で待機している。
「季太郎はどこにいるんだ。ロロ!」
「今日は総統閣下の演説会が総統官邸前で開かれるんだ!」
二人は街路を走っていたが、不意に、
「止まれ」と言う声を聞いた。
同時に彼らは武装親衛隊に囲まれた。
「ソイツらは僕を追って日本から来たスパイだ。 僕が直々に取り調べる。 連れてこい」
「季太郎……」
親衛隊の服を着た季太郎が、親衛隊のドクロの付いた帽子を被って、現れた。
ケイは泣きそうになった。季太郎の冷酷な仮面の裏側を彼女はもう見抜いていたから。
ロロとケイは季太郎の研究室と思しき部屋の、鋼鉄の檻に放り込まれた。親衛隊は部屋から出て行く。分厚い扉が閉まってから、季太郎は帽子を取った。
「……どうして来たんですか、ケイさん」
「お前が! 死ぬつもりだからだ!」
「そうです、僕は死ぬ予定です、もう全ての仕度は整いました」
季太郎は肯いて、哀切に顔を歪めた。ケイが来なければ、彼は無表情で自殺できていた。
「今すぐにここから出せ! お前と一緒に私も死ぬ!」
「……そう言う訳には行かないのです。 ほら、そちらの方。 これがケイさんにも投入されているナノマシンです。 ワクチンにもなります。 すぐに飲んでおいて下さい」
「……ワクチン? 季太郎、まさかお前は、」
ケイが檻から必死に手を伸ばす、だが季太郎はその手にカプセル剤を1錠握らせて、
「ええ、この建物内は有毒のヴィルスでいっぱいなんですよ」
ケイはロロにカプセル剤を投げ渡し、必死に檻から出ようともがいた。ロロはカプセル剤を慌てて飲み下す。
「イヤだ、イヤだ、嫌だ!!!! 一緒にこの世界で生きられないのなら、一緒に死にたい!」
「どうか僕を未練で揺さぶらないで下さい、ケイさん。 悲しくなるじゃありませんか」
「だったら、だったら! 私だって悲しいんだ!」
「……ケイさん、『リング・リインカーネイション・ロジック』については、ご存じですか?」
「聞いてはいるけれど、それが何なんだ! 人類が何だ、文明が何だ、そんなもの全て滅びれば良い! 私はお前を愛しているんだ!」
「ありがとう、ケイさん。 本当に、すみません。 その檻はあと3時間後に自動的に開きます。 ……もう誰にも寂しい思いはさせたくないから、僕がここで全ての害悪を道連れにして行きます」
季太郎はそう言って机の上のスイッチを一つ押した。
「季太郎!」
「これは、731部隊の実験施設を1時間以内に壊滅させるヴィルスを解き放つスイッチです。 寂しい思いをさせて、ごめんなさい――もしも、ねえ、ケイさん、僕がもう一度こちらの世界に来る事が、許されたら、あるいは、運良く誰かに取り憑くことが出来たのなら、」
季太郎はそこで、ついに立っていられずに、椅子にもたれかかった。げば、とそこら中に血反吐をぶちまける。
「必ず……会いに……」
それが最期であった。季太郎の体は、己の血反吐の中にどさりと倒れた。
戦艦長門はその全てを、静かに東京湾に鎮座しながら見ているかのようだった。
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