第18話 苦労の予感
いきなり背後から何者かに胸を掴まれようとしたので、ケイは咄嗟に背後に飛んで不埒漢に激突してやった。不埒漢は軽く後ろに吹っ飛んでワアと悲鳴を出したが、その声には多分に楽天さと爽快さがあるのをケイは感じた。奇妙に思いつつも振り返るとグェンが満面の笑みで大の字になって倒れていた。
「アア痛いな、畜生!」
「一体どうしたんだ」
「見てくれ、俺の手!」
ケイは驚いた。倒れたグェンが突き出した手が、いつものあの手でなく、健常者の手に戻っていたからである。5本の指が楽しそうに動く、
「痛覚もある、触覚もある、しかも色々と便利になった、アハハハハ、痛いな畜生!」
「……季太郎か」
「そうさ! 嬉しすぎて全財産をキタローにやっちまいそうだ!」
「あんな変態野郎の仲間になるつもりか!?」
「過去形、なったんだ! ヒヒヒヒヒー、俺も愛しているぜ、キタロー! まずは満漢全席をタダでご馳走してやる!」
「……馬鹿か」
やたら不機嫌になったケイはポケットに両手を突っ込んで立ち去ろうとしたが、グェンは付いてきた。
「ケイ、お前の体の火傷痕だって綺麗にできるってアイツは言っていたんだ。 ケイは若いんだ、綺麗にして貰えよ。 アイリーンの体の性転換手術の準備がちょっと時間かかるらしいし、その間に――」
ケイはどす黒い憎悪の目でグェンを睨みつけた。
「僕の体をこうしたのはアイツだ! そのアイツが罪悪感と浄罪のためにまた僕の体に手を出すのか! ふざけるな!」
「おお怖。 だけどさケイ、爆弾作ったのはキタローでも、落とす決断をしたのはキタローじゃないぜ?」
「爆弾に人間めがけて落とす以外の使い道があるのか?」
「……ケイ」グェンはとうとう真面目な顔になってしまった。「本当は何より愛が欲しいのだね。 傷だらけで痛みしか感じられない心をそっと包んでくれる愛が欲しい。 だけど君が切実にその愛を欲している相手は、君が憎んでも憎み足らない男なのか……ほとんど悲劇だよ」
「僕は生憎そんなロマンチストじゃあ無いんだ。 これは喜劇だ。 最後に僕が笑ってやる!」
ケイは足音も荒く行ってしまう。グェンはその背中をもう見送るしか無かった。
「キタロー。 こればかりは君がいくら天才だろうと、難儀するよ……」
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