第17話 グェン
「いてえ」とクリフは腹の底から大笑いしつつ新しい足をつねって、朝からそればかりやっている。「いてえ、いてえ、足がいてえよ!」
「うるさいわね!」と朝からずっと耐えていたが、ついに耐えかねてアイリーンが喚いた。「何よ、痛いのが嬉しいなんて貴方マゾヒストなの!?」
「昨日までは無かった足が痛くって痒くってどうしようも無かったんだ。 でも今は、ほら、ここにある俺の足が痛い! いてえ、いてえ、これが可笑しくなくて何なんだ! ハハハハ、キタロー、もう結婚してやってもいいぜ!」
そのクリフを心底羨ましそうに見つめながら、グェンが季太郎に訊ねる。
「俺の手も治してくれるのか、キタロー?」
「はい、ご協力していただけるなら」
「俺は金勘定に損得勘定は誰よりも得意だと自負しているんだ。 この手を戻してくれたなら、アメリカに工場を作る金やら人脈やらをいくらでも都合してやるさ。 ……今までどの医者も匙を投げてきたこの手を、本当に治せたらな」
グェンはそう言って左手をちらつかせた。かつて同胞数人がかりに抑え込まれてハンマーで潰され、五本の指が癒着してしまった手を。
「骨が跡形もなく潰れていますので、人工骨を入れて整形します。 他に付属して欲しい機能等はありますでしょうか?」
「おいおいキタロー、君は一体俺の手に何をするつもりなんだ?」
「いえ、通信機能や計算機能等がご入り用でしたら、付属させようかと……」
「そんな事が出来るのか!?」
「やります」
「……」グェンは言葉を無くして、痛い痛いとゲラゲラ大笑いしているクリフの姿をしばらく見た。「希望はある、だが沢山だ。 とてもじゃないが――」
「僕が研究所にいた時、お偉方は無理難題を山ほど押しつけてきました。 それを全て、僕は実現してきました。 グェンさん、貴方のご協力が必要なのです。 どうか全て希望をおっしゃって下さい」
「……キタロー、君はあまりお利口な人間じゃあないな。 はっきり言わせて貰うが大損ばかりやらかす人間だ。 しかし君は信頼するには充分に足るらしい。 金というものは信頼があってこそ本当の価値を得るものだ」
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