第11話 ナノマシン・プロト
「何だ、この変な機械。 さっきまでは無かったじゃないか」
「キタローが三時間で作っちまった。 これを無限発電炉に繋いでから、精製された原料をぶち込んでコンピューターのプログラムで動かしてナノマシンとやらを作るんだと」
「……何もかもがクレイジーだ。 キタローの頭は一体何で出来ているんだ!?」
「オレが知るかよ。 でもキタローの野郎、流石にそろそろ限界じゃないのか? もう三日間も飲まず食わずで徹夜しているぞ」
「……あの目を見ろよ。 限界をぶち壊した化物の目をしているぜ」
「そんなのはどうでも良いわ! 見て、これがキタローが試作したナノマシンよ。 この電子顕微鏡でやっと見える大きさなのに、何て美しいの……まるで生まれたての細胞みたい……」
「おい、一体何の騒ぎだ?」とそこにケイがやって来た。
「キタローがナノマシンを作っているんだ」と隻脚の黒人が言った。「っても、後は無限発電炉とこの機械とコンピューターを繋げて原料を放り込むだけらしいが」
「はあ!? コイツが起き上がってからたったの三日しか経っていないぞ!?」
「俺達も驚いている。 キタローはクレイジーだ」とアジア系の男が言った。
「そんなのどうでも良いって言っているじゃない、このナノマシンを見て、美しいから……」欧米の金髪の女はうっとりと電子顕微鏡を見つめている。
「出来ました」
その一声に誰もがハッと季太郎を見た。ほぼ同時、接続したコンピューターに最後のプログラム言語を打ち込んだ季太郎が、バターンと棒のように倒れた。
「おい、しっかりしろや!」
ミハイルが季太郎を抱えて起こすと、
「う、うう……目が、回って……あの、白い……起動ボタンを、押すだけ……」
ミハイルに掴まりながら、そのボタンへと必死に手を伸ばす。
その腕が途中でケイに鷲掴みにされた。
「貴様は何でこんな真似をした? 贖罪のつもりか?」ケイが、とげとげしい態度で季太郎をなじった。「それとも僕を憐れんだのか? 貴様から憐れみを貰うほど僕は惨めじゃない!」
「ケイ、」とミハイルが大声を出そうとしたのを季太郎が首を振って押し止めた。
「どうか、どうか、笑って、下さい」
「ああ嗤ってやるとも、腹を抱えて貴様を嘲笑ってやる!」
「僕は」季太郎はボタンを押した。「貴女に、恋をしているようなのです」
一瞬の沈黙の後に、ケイが顔を極限まで赤く染めるなり、ばっと身を翻して逃げ出した。
すかさずミハイルが、おい!と呼ぶと、彼の妻が美しい微笑みを浮かべたまま平然と、ジタバタと暴れるケイを問答無用で引きずって来る。
「旦那様。 何用でしょうか」
「そのまま逃がすな」
「承知いたしましたよ、うふふふ」
だが季太郎はもう何もかもが限界であった。注射器を取ろうとして、手の震えが酷くて持てず、小さく低く呻く。
「用量は?」ミハイルが白衣姿のとっておき達に目で合図しつつ、季太郎に尋ねた。
「静脈へ、ウウ、目盛り三つ分……です」
「OK、ミハイル。 クリフとグェンはケイを押さえつけてね。 先に腕を消毒するわよ」
欧米の女が仲間と一緒にケイにナノマシンを投入した。
「変化はあるか!?」
「どうだ、どうなんだ!?」
黒人やアジア系の男が好奇心丸出しで聞いたが、
「……無い」
「速効性はありません……数時間、数日かけて……ゆっくりと全身の被爆症状を治して行きます。 末期の、癌にも効き……人の体内で必要な分だけ増殖……何十年も……」
説明しようとした季太郎は、そこで気絶した。
「ハア……」ミハイルが嘆息し、「また治療室か。 余程コイツの前世は、治療室のベッドか枕だったんだろうよ」
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