第9話 コレクターの偏愛 上

 季太郎が横になってボンヤリしていると、ミハイルがやって来た。

「よう季太郎。 ナノマシン、だったか? 全く面白いものを考えつくなア」

「……宮様、無念です」季太郎は何とか半身を起こして、「いくら面白いものを思いついたところで、実用化出来ねば意味がありません。 僕はそれが無念なのです……」

「ホウ。 どの程度の施設があればナノマシンとやらを作れるんだ?」

「最低で、高等師範学校の理科室程度は頂きたいであります。 それさえあれば、後は僕が自力で作ります」

「……そりゃ本当かい?」

「はい。 僕はそこで最初の無限発電炉を作りました。 後は、資材や原料が数多く必要であります」

「一番何が必要だ?」

「炭素……炭がナノマシンの増産に必要であります。 ガラスの原材料や薬品類、金属類も計器を作成するにあたっては欠かせません。 そして、無限発電炉の動力源、『史水晶』も」

「フウム……だが『史水晶』は今や国家が一切合切独占している。 とてもじゃねえが欠片だって俺でも手が出ねえぞ」

「一つだけあります」

「どこに?」

「僕の父方の墓に、今のような国家の独占状態に陥る前に僕が供えました」

「……。 お前は本気だな。 お前は実際、何をしたいんだ?」

「一笑に付していただけますでしょうか、宮様」

「何だ、俺に笑ってやり過ごして欲しいのか?」

「はい。 僕はどうやら、生まれて初めて、恋をしているようなのです」

「……」ミハイルは黙ってから、哀れみの目で季太郎を見た。だがその目に映っているのは、季太郎では無かった。「ケイはあと半年も持たん。 お前の前では意地を張っているが、もう体は被爆症状でボロボロだ。 頭だって禿げちまってカツラなのさ。 季太郎よ、お前がいくら頭が良かろうと既に手遅れ――」

これに対して、季太郎は懇願した。

「宮様、何とか僕をどこかの研究所に入れて下さい、ある程度の施設さえあれば、無限発電炉さえあれば、半月もかからぬのです」

ミハイルが驚く。

「ハ……? 季太郎、お前は前代未聞のモノをたった半月、たった一人で完成させると言うのか?」

「お偉方からどやしつけられた時に、僕がよくやってきたことであります」

好奇心と驚異への感動、更に挑戦者への興味がミハイルの中で俄然と湧いてきた。これこそが彼がとんでもない変人奇人だがとびきりに優秀な人間を蒐集する際にもっとも心を惹きつけられ、そしてのめり込んでいる醍醐味なのである。

「……。 面白え。 お前は本気で本当を言っているな。 良いだろう。 特別に最高水準の科学研究施設を貸してやる。 広くはねえが、きっとお前の欲しいものは全て揃っているぜ」

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