第45話王宮とルーク救出part6

 カリン姉の指示で、部隊編成が終わると私達は当初の予定通り地下通路から潜入する事になった。


 なったのだが、バンがいなかったら正直この地下通路内で迷子のまま餓死するんじゃないかとリンは冷や汗を流した。

 それくらい地下通路は入り組んでいてまるで巨大な迷路のようだ。何故こんな無駄に複雑にするのか?と言う疑問も命を狙われる王族なら仕方がないのかも知れない。

 逃げたりする際に使用するこの通路。追手を巻く意味も兼ねているのだろう。


「バンがいなかったら絶対に迷子になって最悪死ぬな…」


 ボソッっと呟いたリンに全員が神妙な顔をして頷いた。カリンでさえこの規模、と言うかわざと迷わせようとしている作りの通路は無事に脱出は出来ないだろう。


「…ルーク様に一度伺った事がある」


 皆その一言でサトリに注目した。


「サトリ君!?」


 そんな時、今まで一言も口を開かなかったサトリ君がそんな事を言ってきたのだから驚いても無理はないだろう。

 寧ろ、『え!?…お前普通に話せたの!?』と言った感じだ。


「ああ、何処とも仰る事は無かったのだが、王家には直系のみに伝えられる秘密の通路が有ると、俺はそう聞いた」


 リンには素直なサトリは、やはり知っている事を素直に答えてくれた。


「そうなんだ。……じゃあルー様はこの通路をご存知かも知れないね」


 コクンと頷くサトリの仕草はちょっと可愛かった。


「時間が惜しいから進みましょう」


 カリン姉はバンに進むよう顔で促すとリンとサトリに指示を出した。

 勿論リンは全面的にカリンを慕っているから全力で従うし、サトリも異論はなかった。


 全く同じ様な場所を進み、途中途中幾つも小部屋が有り、そこには七つの扉が付いていて、その一つ一つの扉の先にも道がある。

 平坦な通路かと思いきやアップダウンが結構激しい。歩きだして5分も過ぎた頃には方向感覚が麻痺していた。


「バン、今で大体どのくらい城に近付いているの?……」


 2番手の位地にいるカリンが先頭を歩く(と言っても普通の人が走っているより速いのだが)バンに声をかけた。

 因みにリンが3番手で、サトリ君が殿を勤めている。実力から言っても当然かも知れないが、何だかんだと皆リンには甘かった。


「全体の2割消化と言ったところでしょうか……進んでいる様で進んでいないんですよ、それがこの通路の恐いところです。もしかしたら公爵なら最短距離を知っているのかも知れませんが、安全を優先しました。迷うという最悪だけは避けなければなりませんから」


「それで良いわ。…」


 その後もかなりの時間を要して通路を進むと見慣れた紋章がある扉の前にたどり着いた。そこからは王宮内だ。

 二手に別れると、リンとバンは北の塔に。カリンとサトリ君は表向きルー様が監禁されているという部屋に向かった。

 ここからはルー様のいる塔は遠いが、確かに警護をしている騎士や、侍女等の使用人とは中々出会さない。

 出くわしても、気配を読める者は居なかった為、天井迄素早く駆け上り気配を消せば難なく通り過ぎる事ができた。

 実は、カリン達の方が警護が厳重だった事をリンが知ったのは随分と後の話になる。


「ここが塔の入り口だ。……」


 バンが目線を送った先には重たそうな大きな鉄製の両開きの扉に、どデカイ南京錠が掛けられ、鎧を纏った騎士が二人で侵入者の侵入を阻んでいた。

 だが、バンはその反対側にある高さにして3階以上もある場所に設置されている、換気用の子供一人がやっとは入れる、窓と称して良いのか解らない穴を指差した。


「………もしかしなくても、あそこから私に中に入れと?」


「………男には無理だが、小柄な女性なら何とか入れるだろ?俺は下で奴等を相手する」


「いや、確かに入れそうだけど………あれ、高さが建物の3階位の位地にあるよ?」


「俺の背を踏み台にすればお前なら入れるだろ?」


「………」


 確かに無理ではない。かなりの無茶だけど、出来ない事もない。

 ………いや確実に私なら出来るのだが、そうしたら、バンは一人でここの男達と対峙するのだろうか?


「警備している騎士を二人で倒してからで良くない?」


「今現在は二人だが、隊列を組んで巡回している奴等が短い時間でかなりくるんだ」


「尚の事バンが危ないじゃない‼️」


「手はあるから、大人しくお前は公爵のところに行ってこいよ」


 頭をポンポンとされる。

 リンは昔を思い出し暖かい気持ちになる。何だかんだとバンは面倒見の良い兄貴分なのだ。

 一人でも任務を遂行出来る実力はあるから今回の部隊に選ばれた。リンがいた方が寧ろ邪魔なのかも知れないが……敵陣に一人でいさせたくは無かった。それは最早理屈じゃない。


「大丈夫だ。……安心して行ってこいよ」


 強面なのにその眼差しは優しかった。


 リンは頷くのを合図に、バンが先行して足音をたてずに駆け出した。

 リンが追従するとバンの背を踏み台にフワリと窓に飛び移った。

 確かにリンでギリギリで、ガタイの良いバンは絶対に入れそうも無かった。

 忍者の様な身のこなしの2人の存在に門番は気付いてもいない。

 リン達が凄いのか、彼らが雜なのか?

 どちらも正解だ。第2王妃を恐れルークを表だって助けようとする貴族等いない中に、ルークが監禁されていると思われているのは、貴族専用の監禁部屋だ。

 だから門番とてお飾りな物だった。

 他に侵入経路がない塔だから、気付かれずに侵入して逃げる時に扉を破壊する方が寧ろ危険がない。

 だからこそバンはリンだけを先に行かせたのだ。並みの敵ならリンは遅れを取らない。

 バンは気配を殺してリンが公爵を連れ出し、降りてくるのを待ったのだが、多少当てが外れる事になるとは、流石のバンも思っても見なかった。


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