第46話王宮とルーク救出part7
リンを送り出したバンは完全に気配を消し、塔の中に入っていったリンの気配を探る事に集中した。
その頃敢えて気配を消さずにルークが監禁されている部屋へと向かったカリンとサトリは予定通り大勢の敵に囲まれていた。
とは言え、余りにも目立てばこちらの作戦が敵にバレてしまう為、密かを装ったのは言うまでもない。
カリンとサトリの陽動が上手く行けば行くほどリン達の安全が確保される。
カリンはその美しい上唇を舌でぺろりと舐めて妖艶な雰囲気を醸し出すと敵を挑発した。
◇◇◇
リンは長く続く塔の階段をひたすら上へと登っていた。
この階段は何故かリンとルークの部屋を繋ぐ屋根裏の雰囲気に良く似ている。
まあ、気のせいかも知れないが……。
しかし、何故にあの人は自分に何も言わずに行ったのか?
思いを伝えあった仲では無かったか?
そんな事を考えていたリンはムカムカが段々と収まらなくなっているのを責められる人なんていない筈だ。
最上階迄リンが到着するのにそんなに時間は要しなかった。
まさかそこで絶句するはめになるともリンは思ってなかった。
不気味な石の螺旋階段を上りきった先には、茶色の古い重厚感のあるドアがあった。息1つ乱さず上ってきたリンだが何故かそのドアノブを回すのに一瞬の戸惑いを感じる。
だって、もしも何故来た?等と少しでも言われたら?
自分の心は何処に行けば良いのか。
だがそれも一瞬だ。
勢い良く回し開いた先には………誰も居なかった。そう、誰も居なかったのだ。
「え……どういう事?……ルー様は?」
見渡しても本棚、そしてテーブルと椅子が1つあるだけ。
探していた本人はいない。
思ったよりも広い殺風景な空間。
リンは少ない情報から欠片でもかき集めようとして意識を集中させた。
確かにここにルー様はいた筈だ。だってここには彼の気配が残ってる。
すると見覚えのある紋章が目についた。
色々な紋章が石の壁には刻み込まれている。鳥…太陽…月……蛇にクロコダイル…そして獅子。その中で気付いたのはルー様の部屋にも刻まれていた紋章。そう竜だ。リンは何気なくその竜の紋章に手をかざした。
するとその竜が刻まれた石が光りだし、足元から1つの穴が顔を出した。
どうやって?そう思ったら負けな様な気がする。だってルークは魔女の末裔なのだから。
でも何故王家の居住区である王宮にこんな物が有るのだろう?
いや、考えない。
リンは今度こそ躊躇う事無くその人一人がやっと通れる穴を降りてみる事にしたのだ。
その穴は鉄製の梯子が掛かっているのだが下は真っ暗で見えない。
落ちたらきっと死ぬだろうな、リンは慎重に降りていく。上ってきたよりも緊張と体力がいる。下まで到着するとそこはどうやって作り灯りを灯しているのか解らない六畳程の円形の空間に7つの扉。
リンは迷わず竜の紋章が付いた扉を開いた。
そこには下へと続く階段があった。段々腹がたってきたが、リンは階段を下り、下りきった先には広い空間。
木々が生い茂っていて、ここが地下なのか、地上なのか解らなくなる。
どうしてこんな地下にこれ程の空間が広がっているのか?
その技術力の高さに素人のリンも純粋に凄いと感じた。先へと進むとそこには大きな石で作られたプールの様な池?があり、上からその石の池の様な物に水が流れ込まれている。
ルークはその石の縁に腰かけて黙って溜められた水を眺めていた。
「ルー様!!」
リンは駆け出してルーク目掛けて飛び付いた。
「リン!?…」
ルークは危なげなくリンを抱き止め、その胸に抱き締めた。
何処よりも安心できるその胸に抱かれ、腕の中にすっぽりと抱えられながらリンは訪ねた。
「どうしてって、何で来たって言わないんですね」
「リンに来て欲しいって思っていたからね。……俺の方こそ、もう俺の事なんて知らないって、リンに言われたら……そう思うと怖かったよ」
「置いていった癖に……」
ついつい恨みがましい思いが込み上げてくる。だってぶん殴ってやろうと思って、その思いだけでここまで来たのだ。
「ごめんね……出来ればこんなところには来て欲しくなかった」
「今来て欲しいって言ったのに」
「矛盾してるんだ。……でも有り難う……リン」
痛くない位の強さで更に力を込められた腕に抱き締められた。
「………」
酷い……これでは怒れない。
会えて嬉しい。無事で嬉しい。
「ルーク様……ここから逃げましょう」
胸に埋めていた顔を持ち上げルークを見詰める。
「まだ、行けないんだ」
「どうして!?」
ここに来てまさかの2回目、またも驚くことになるとは思わなかった。
「月並みだけどやることがあってね」
「何で!?…公爵領に皆に迷惑が掛かるから!?」
「それもあるけど………リン、俺が洗脳した暗殺部隊を覚えているかい?」
「もちろん覚えてますよ。そこまでバカじゃ有りませんから!!」
ちょっとバカにされた様な感覚に頭に来てしまうが何も出来ない。何せリンの身体はその間も抱き締められたままだ。
リンは怒りのままにルークの腕から逃れようとするが、手すら動かせなかった。
「離して下さい!!」
「嫌だ。……リンが
こんな時に我儘は言わないで頂きたい。
………絶対に本人には言わないが、嫌じゃないけど。
「解ったから教えてください」
リンが大人しくなったのを確認してからルークは話し出した。
「リンが俺にとって大事な女性だと、あの女に伝わってしまった」
それがどうしたと言うのか?
リンは守られているだけの弱い女じゃない。
何なら、体術だけならルークよりも強い。
「私は強いので刺客には簡単に負けませんよ?…私を育ててくれた人達も強いですし…」
人質に取られる様な柔な人達じゃない。
「そうだね……でもそれでもリンは唯一シリルの王位を脅かす者を産み出せる存在だと認識されてしまったんだ。……こう見えて俺は自分に子が出来る行為は……してこなかった。その俺が側におく女。多分理由なんてそれだけで十分なのだろう」
「………えっ?……」
その顔で?とは言わないでおく。
色々と俺にも問題があったからね、ルー様は言った。
彼の能力、心を読み取れてしまう力は……確かに恋愛には向かない。人を支配し利用するには向いてる力だけど。
綺麗な気持ちだけを人は人に向ける訳ではないから。
「私が狙われたから、ルー様はここに来たの?」
リンにはその事の方がショックだった。
「自分の命が狙われているだけなら、面倒だから無視しておくけれど、俺にも許せない事があるんだ。知らせないで済むなら知らせたくは無かったけれど、………もう離してあげられないから……リンも自覚して欲しい」
危険だと………。
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