第44話王宮とルーク救出part5

 話が纏まれば後は早かった。

 あれから話にサトリ君が参加するとその日の夜には王都の屋敷に向けて途中から早馬を走らせる。


 本来なら、馬車で4日以上掛かる道のりだけれど、リンを含めて皆その道の手練れだ。

 文字通り最短で、かつ人目につかない山を突っ切って、途中の村で馬を調達して休みなく駆け抜ける。

 サトリ君は、リンが自分の動きに付いてきている事に驚いていたけれど、故郷の村に居た時はもっと過酷な事を遊びと称して行っていたのだから、今更だ。

 それが訓練だと理解する 前から鍛えて貰っていた事に、村を出て始めて解って感謝する事になるなんて、まだご年配のお歴々方と比較すれば短いけれど、人生とは解らないものだ。


「リン、スピードを上げるけれどついて来れる?」


 山の木々を蔦って高速移動中カリンがリンに声をかけた。

 サトリを無視している訳ではなく、サトリの実力を正確に汲み取ってカリンは大丈夫と判断し、一番幼く、訓練はしていても実践歴の乏しいリンに確認ているのだ。


「全然大丈夫!!…もっと飛ばせるよ!!」


 昔を思い出して少し楽しくなっているリンは元気に答える。


「了解…じゃあ、もう二段階スピードを上げるからキツイ様なら必ず言う事!!…無理して付いてきても後で戦えなくなって逆に迷惑だからね?」


 一見キツイ事を言っている様だが、それもカリンの優しさだ。

 戦場では正確な情報が明暗を分ける。

 無理して実戦で使い物にならなくなる事の方が、皆にも迷惑を掛けるばかりか死なせてしまう事だってある。

 カリンは実戦を積み経験値でも実力でも自他共に認めるリーダーだった。


 カリンは癖の無い短い前下がりのショートボブに長身、そして鍛え抜かれた均整の取れた美しい野生の獣のような肉体。

 魅惑的な唇に切れ長の目の美女だ。


 性格はサバサバしていて小料理屋の女将の様な気さくさもある。リンにとっては自慢の姉だった。

 サトリも一目見てカリンが手練れだと分かり、素直に指示に従っている。

 即席のチームとしてはかなりバランスがよく出来が良い。


 それも全て親方の判断だというから、親方には頭が上がらない。


 と言うのも実力者はカリンの他にも勿論たくさんいる。

 だが、カリン以上にリンを知っている者はいない。最適で最善な人員配置。

 親方は、何時も何故かリンには優しかった。

 ただの厄介者の村人一家の娘でしかないのに。お母さんが死んでからは特に優しくなったと思う。まあ、だからこそ甘えてばかりいられないと村を出て一人で生きていく道を選んだのだが……。


 感傷に浸るにはスピードが速すぎるので、いつの間にか考えていた事は頭の片隅に追いやられた。きっと最短新記録達成だろうと思われる早さで潜伏場所である屋敷に到着すると、そこにはカリンが情報収集を指示していた部隊が戻ってきていた。


「その後進展はあった?」


 カリンが訪ねると、部隊の小隊長の役割にいたバンが代表して答えた。

 バンは少し小柄で(と言っても170cmはある細マッチョだが)短い赤毛がトレードマークの左目に黒の眼帯をして、もう片方の目は鋭く切れ長で、見る人にとてつもない威圧感を与える、リンより3つ年上の男だ。


「カリンさん。……ちょっとおかしな部分が有るんです……」


 何時もの鋭い表情を少しだけ困惑した物に変えているバンは、リンの目からしても珍しい。いつだって用件のみを簡潔に述べる男だった筈だ。


「何よ?……煮えきれない言葉じゃない?貴方らしく無いわね」


「判断に迷いました。……」


「と言うと?…」


「公爵が北の峠にいるのは間違い無いのですが、どうも自らその峠に向かった様なのです」


「!!!」


 シリウス様の話では、とてもじゃないが好んで行くような場所じゃない。自らを痛め付ける事にちょっとした快楽を覚えるドMだから、では辻褄が合わない。


「確かに変ね……そんなに意味のない行動をとる男じゃないと、調べていて思ったから、もしかしなくとも何か意味がある筈よね」


「ただ、王宮に入り込むのは比較的楽なんですが、北の峠には一定以上近付け無いんです」


「バン、貴方でも難しいの?」


 バンの小隊が今回の救出に選ばれたのには意味がある。情報収集や潜入捜査に長けているからだ。そのバンが近付けないとなると、もう他の人では難しくなってしまう。


「…無理矢理入り込む事は出来なくは無いんですが、此方の存在が相手にバレてしまう可能性が高くなり、一度カリンさんの指示を仰ごうかと……」


「成る程ね……正しい判断だわ。……今、第二王妃側に私達の存在が漏れるのは得策じゃない。……仕方がないわね。ぶっつけになるけど、そのまま助け出す作戦に変更しましょう」



 カリンは王宮の状態を細かくバンに確認すると、何処から北の峠に潜入するか割り出した。

 部隊を陽動と助け出す2つのチームに、チーム分けを行った。

 何とカリンとサトリ君は陽動部隊。

 私とバン達が救出部隊になった。


「王宮を詳しく知っているバンが救出部隊に入った方が良いわね。……今回はあくまでも公爵を助け出すのが最優先だから。……まあ、そっちに目が行かないように大荒れしてやるわ!」


 複雑そうな表情のサトリ君だったが、人選には納得している様だ。陽動も実力がなければ危険だ。その点サトリ君なら安心で、その事はサトリ君もにも解っているみたい。

 多分、絶対に助ける方に行きたかった筈なのにと思うと申し訳なく思うけど、今この場においてカリン姉の指示は絶対だから。


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