第43王宮とルーク救出part4

 役者は揃った。

 ……揃って無いけど、まだカリン姉が来ていないけど、ルー様を本当に助けたいメンバーは揃ったのだ。


 絶対に一言文句を言ってやるんだから。

 置いていったことは絶対に許さない。


 リンは決意を胸に今か今かとカリンの到着を待っていた。

 親方が言っていたよりも早くカリンが公爵家迄到着すると、その持ち帰った情報に愕然としてしまった。



「考えていたよりも最悪ね。……あの性悪女、公爵を確実に殺す事しか考えて無いんじゃないかしら?」


 王都から情報を仕入れてきたカリンは何やら不穏な話を始めた。


「どう言う事!?」


 あまりの内容に、リンは座っていたソファから勢い良く立ち上がり目の前のテーブルに前屈みになるようにバンっと手をついた。

 さながら顔を近づけカリンの胸ぐらを掴む勢いだ。

 一方、落ち着いているカリンはリンを抱き締め背中を撫でながら落ち着くように促す。

 だが、内心カリンはとても驚いていた。

 何故なら、あの情緒的な部分ではお子様だったリンが、女として一人の男を心配する何て……。これはもう、公爵は一度ぶん殴る。

 絶対に一回はぶん殴る。いきなり可愛い妹が女の表情をする様になったのだ、これは当然だろう。

 そんな不吉で、親方と同じ事を考える辺りはやはり親子である。


「ちゃんと教えるから、少し落ち着きなさい。……これでは貴女、助け出す前に敵の罠に嵌まりそうよ?」


「……ご免なさい、カリン姉。……それとお帰りなさい」



「うちの妹尊い!!!」


 テンション爆上がりなカリンは、可愛い妹の可愛い仕草に、その豊満な胸にリンの顔を埋めて掻抱いた。


「うっぷ!!!」


 リンはカリンの懐かしい香りに安らぎながらも、呼吸が出来ないため、違う意味でも永遠に安らいだ世界に旅立ちそうになってしまった。


「あ~、カリン。リンが死んじまうから離してやれ……」


 親方が助け船を出してくれなければきっと、お空の向こうのお花畑にいる母親に会いに行くところだ。


「何で……カリン姉のお胸はそんなに大きいの?」


 リンは自分の胸を触りながら、恨めしそうに呟く。


「……その事で公爵に何か言われたの?(もしそうならあの公爵殺してやる)」


 物騒な副音声が聞こえて来そうなカリンに、慌ててリンは否定した。


「何にも言われた事ないよ!?…私が勝手に無い物ねだりしてただけだよ!?」


「……なら良いけど……」


「リンさん、デカければ良いという物では有りませんよ?」


「「……」」


 まさかシリウス様がフォローしてくれる何て思っても見なかったリンは開いた口が塞がらなくなってしまった。


(うん、触れるのはよそう)


 リンはその事に触れるだけの技術と精神力を持ち合わせてはいないため、戦線を離脱する事を選んだのだ。


 その事に突っ込みを入れたのは、先ほど入室してきた、まさかのアンさんだった。

 アンさんは裏拳をシリウス様に鮮やかに入れると、流石のポーカーフェイス、シリウス様も鳩尾を抱え悶えた。

 公爵家、アンさん最強説。


「カリン様、どうぞお話を続けて下さい」


 何事も無かったかの様にニッコリと笑顔になるアンさんに、カリン姉も珍しく若干驚いていた様だ。

 それでも素早く気を取り直したカリンは話を進めた。


「……話を進めると、今公爵は高貴な犯罪人が入る取り調べ室内にいるわ。……表向きはね」


「実際には、ルーク様は何処にいらっしゃるんですか?」


 突っ込んだのは復活し、何時もの様子に戻ったシリウス様だ。


「重犯罪人が送られる北の峠の最上階よ」


「!!!」


 話の内容から、穏やかではない場所なのは確かだが、それでもそれ以上にシリウス様が驚いている事を見ると、どうやらシリウス様は、その北の峠を知っている様だった。

 嫌な予感がリンの頭を過る。


「シリウス様……そこはどんな場所なんですか?」


 リンが逸る胸を抑えて訪ねた。


「……犯罪者用、なのは確かなのですが、暗殺者等プロに口を割らせる為にあらゆる拷問道具が集められた場所です。……表向きは王宮の北にある見張峠です。最も国はその存在を認めてはいませんが……悪趣味な場所ですよ」


「何で!?公爵であるルー様がそんな所に入れられているんです!?…通常なら絶対に有り得ないでしょう!!」


 いくらシリル様を暗殺しようとした罪を捏造されたとしても、王子であり、シリル様にとっては義理兄のルークを取り調べるには早急で、無理がある。


「王が知れば、王命で止められる事は火を見えるより明らかです。知っていれば絶対に許しはしないでしょう。それが第二王妃にも解っているから、いない時を見計らい、帰ってくるより早く殺す必要があったのでしょうね。ですがらしくないですね。恐ろしく慎重なあの女らしくない。何か事情が有りそうですね」


「事情何て知らない……その女も絶対に殴ってやる……」


 リンの怒りと焦りのボルテージはメーターを振り切り始めた。

 これ以上……リンは、"待て"が出来ないと覚った親方が今後の打ち合わせに話をすり替える。


 細かい打合せはまた到着後に今も情報を集めている風の谷の情報班からの報告を確認してからにはなるが、大枠はシリウスが用意した潜伏場所から城まで潜入し、王宮の見取図を確認、最短では無いが警備が薄い通路を通ってルーク様がいる北の峠に到着後助け出すという裁断だ。

(リンは敵を全部倒してでも最短を進みたいが却下された)

 潜入しするのはリンとサトリ君、そしてカリン姉だ。


 いくつも疑問な箇所が有り、リンにもそれは解っていたのだが、焦りから冷静さを欠いて確認するのを忘れてしまっていたのだ。


 その結果、後で大きく驚く事になることをリンには解っていなかった。

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