第33話自分から望んで巻き込まれに行くpart4

「はあ…。私、結構雇い主に対して酷い対応してきた自覚が有るんですよね。(まあ、ルー様も結構酷い事してると思うからお互い様だけどね。……でも身分が高い人なのにそれを笠に着る事が無いルー様は雇い主としては悪くない)……こんな失礼な奴、ルー様今までだってやろうと思えば従わせる事が出来たでしょう?…-でもやらなかった…私にはそれが全てです」


 そうなのだ。

 気持ち悪い、とかそんなことじゃなくてただ、ルー様は私にはその力を使わないと信じているから、信じられるから何とも思わない。


「ただ…」

「ただ…?」


 ルー様は緊張した様に顔を強ばらせた。


「便利だなって」

「へ?…」


 あらら、随分間抜けな顔をしていらっしゃる。それでも格好がつくのだから美形は得だ。


「使うポイントさえ間違わなければ便利な能力ですよね、それ」

「あ、はは、あはははははははっはは!!」


 言い終わるが早いかルー様は大爆笑してしまった。それこそ腹を抱えてたまに声を詰まらせての力一杯の大爆笑だ。

 外野の敵達は当然ながらそれを見ても(←見てるのかは不明だが)無表情。

 うん、とってもシュールな絵柄になっている事だろう。不気味だ。何の関係もない他人が見たら恐怖で腰が抜ける事請け合いだ。

 良かった、ここがついうっかりでも人に見付かりそうもない場所で。


「流石リンだよ!!…もう手放せない!!…結婚してほしい!!」


 その間も大爆笑は止まらない。

 いや……止められ無いが正しいか?


「はあ!?」


 何なのだ!?

 ホントに勘弁して欲しい。冗談なのは解っているが、私だって年頃の女の子なのだから、その手の心臓に悪い冗談はやめて頂きたい。

 そりゃ、他の娘に比べて情緒的なものは多少遅れているとは思うが、それでも女なのだからその様に扱って欲しいものだ。


「冗談でも言っちゃ駄目な奴ですよ、それ」


 全く、これだから無駄に美形は困る。

 容姿に自信がある奴は冗談がえげつない。


「冗談で言っているつもりは無いんだけどな…」


 冗談じゃなきゃ何だと言うのだ。

 方や王様の息子、方や身内ももう一人もいない様な天涯孤独の身の上だ。

 夢見る頃を過ぎたら、子供だって解るっつのに。


「……なおのこと駄目ですよね…」


 呆れながら、頭1つ分以上大きいルー様を見上げると、眼があってしまう。

 意図せず見詰めあっているよな錯覚。

 何を考えたのか、ルー様は私の頬にチュッとリップ音をつけて下さい口付けた。


「何してるんです?」


 油断も隙もないったら。


「言ったよね?…俺はリンが好きだって」


 ちょっと半ギレで伝えてくるルー様に、リンは少し困惑した。いや……キレる意味が解んないし。


「聞きましたけど……」


 うんん?……外気温がまた10度程下がったのは気のせいだろうか?


「けど?」


 ルー様は私の肩を抱き寄せると、私の頭にすり寄った。


「結婚と、それ《恋愛》は別問題でしょう……」



 尚も抵抗する。

 しないと心が駄目になりそうで怖いから。


「ねえ、リン。……俺はリン以外を選ばない…俺は言った事は何がなんでも実行するよ?…もういい加減覚悟して?…俺執着心が強いよ」


 私の答えを聞く気は無いのかルー様は私に上を向かせると口付けた。初めは軽く、慣れてくると深く…。

 どうやら、ルー様は物理的に独占欲とやらを解らせようとしている様だ。

 息苦しくて口を開けると待っていたとばかりに厚い舌を入れてきた。


「う?…ん!!」


 ロープロープと手でバシバシとルー様の体を叩くけど効果はなかった、抵抗しても無駄で、ルー様の舌は私の口の中を弄ぶ。

 舌を吸われ逃げようとすると頭を大きな手で抑え込まれた。身長差が有るからいつの間にか片手で抱き上げられながらの深い口付けは、ルー様が満足するまで続けられた。


「何するんです……」


 まだ抱き上げられたままの格好だから、ジト目で見下ろすと、ルー様は意地悪そうに笑う。


「恋人にキスしゃだめ?…リンは嫌だった?」


 リンが嫌がっていなかった事を知っていて言っているから質が悪い。

 だって、ルー様の舌に自身も答えていた。

 嫌がっていたらそんなことはしないのは、リンにだって解る。


「意地悪すると嫌いになりなすよ?」


 悔し紛れのせめてもの抵抗だった。


「あんまり可愛い事を言わないで、嫌われたくないのに……ここで襲いたくなる」

「そんな本音は自重してください!!そんなことをしたら本当に嫌いになりますよ!!」


 見ているのかいないのか解らない連中だが、こんなにギャラリーが多い状態で、初めてを奪われたら軽く死ねる。


「リンは俺に抱かれるのが嫌なの?」


 またも下がり捲る気温に怖じ気づいたリンは慌てて本音を漏らしてしまった。


「人目が一杯あるところでなんて絶対に嫌なの!!…恥ずかしいでしょう!?」

「成る程ね…良かった……人目がなければ良いんだね。危うく無理矢理押し倒すと懲りだった」


 何が"良かった"か!?


「だから何でそうなるんです!?ルー様の変態!!」

「何だろう…他の奴らに言われたら絶対に許さないのに、好きな娘に言われるとちょっと興奮するね」

「!!!!!!」


 どうしよう……ルー様、まじで変態だ。

 王様、貴方の息子は変態です。

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