第31話自分から望んで巻き込まれに行くpart2

 森の中は獣道が有るとはいえ鬱蒼としており伸びた草や木々で歩くのは慣れた人でも少々困難だった。

 リン1人なら上を歩く。

 そう文字通り上にある木々を飛び移り移動するため、森の歩き辛さ等気にした事など無かったが、ルー様がいる以上それは出来ないし同じ事をしてくれとも言えない。

 子供の頃からそうとは知らずに周囲に鍛えられていたリンの身体能力をは恐ろしく高い。


 ルークとて本当は魔法を使えばリンと同じ動きが出来るのだが、リンには未だ伝えていないため知るよしもないから、とりいあえず道を作る事に専念することにした。

 そうでなければお貴族様にはかなり歩き辛い道だろうと考えたからだった。

 太ももにベルトをつけ、ナイフを隠し持っていたからそれを使う。何か合ったときのための武器なのだから有効活用するのは当然だ。

 クラシカルなメイド服の為、スカート丈はそこそこ長く、その長いスカートをたくしあげ、隠れていたカモシカの様な無駄な肉のない足からナイフを取り出すところをルー様は何が楽しいのかじっと見詰めてくる。

 だが、その視線の意味など理解できないリンは、構う事なくナイフを足からとり、スカートを元に戻すと降り木々を切り落としていく。足が仕舞われてしまった事を残念そうにルークが見ている事などリンは知る由もなかった。

 そのリンが通った後には道が切り開かれた。

 先頭をリンが率先して歩き、その後をルークが続く。

 本来なら男が前に出る物だとルークは勿論思っていたが、敵は後ろから追い掛けて来る事を考えると自分が殿を守りたい。

 リンを盾にだけはしたくなかった。

 仕方がなく後ろをついて行くとどうしても華奢な少女が視線に入ってしまう。本当なら自分の問題に巻き込みたくなかった。でもリンだけは側から離したくなかった。

 それは側にいてくれる恩恵だけではもうなくて、心がそれを拒絶していたのだ。

 心のなかで何度も謝るが、そんな事をリンは知る事はない。


 離せないなら守り危険になんて合わせない様にするまでだ。

 今までならいつ死んでも良かった。

 ただ母上を殺したあの女に殺される事が我慢ならなかっただけだ。


 でも今は死ねない。

 きっとリンは俺を護ろうとするから、出来ない。其れならば、死なない手を使うだけだ。それが今まで絶対に使いたくなかった物であったとしても……。


 なるべくなら人に知られる訳には行かない危険な行為。ただ其れ丈の為に消して他人がいない場所まで進んでいるのだ。


「ルー様、方向はこちらであっていますか?」


 リンが振り返り聞いてくる。

 勿論、行き先なんて本当はどこでも良かった。まあ、水辺の方が何かと都合良いと言うだけで湖を目指しているに過ぎない。


「目的は湖だから、その方角であっているよ…」

「ああ、確かにこの先に有りそうですね」

「?……リンはどうしてそう思うの?」

「獣にとって水辺とは命綱ですからね。……獣道の先には大体、餌場となる水辺は多いんですよね」

「成る程ね…」


 素直に感心してしまうと同時に、この娘はどうやって育ったのかと考える。

 普通じゃないが、調べさせても詳しい実態が掴めなかったのだ。

 意図的に流されている情報以外掴めない。

 普通なら、ただの普通の村だからそんなものだろうと、そう考えるだろうが何かが引っ掛かる。

 それはリンの身体能力を高さと、知識量だ。

 そして……育った場所。そこの村には人の侵入を許さない自然の渓谷がある。

 余りにも過酷すぎて、人が生きていくが厳しい地域。

 それを結び付けていくと、ひとつの答えに導かれていく。

 俺も王族の知識としてしか解らない、伝説の"風の民"と呼ばれる殺し屋集団だ。


 それも解らない事の方が多い。

 リンが風の民の娘ならば、何故彼女が村を出ることを風の民は許したのか?


 考えてればキリがないが、リンが何者でももはや、リンがリンであればどうでも良い俺にとっては些細な事だった。

 何者であっても逃がさない。


「湖に向かえば良いんですよね?…目的地は理解しました。なら少しスピードを上げて行きますね?」

「それは問題にけど…どうして?」

「敵のの足音が近付いています。……明らかに獣の物でも、普通の人の物でもない、訓練された者達の特種な足音です」


 驚いた。

 俺ですら集中していないと気配を察知出来ないのに……。

 まあ、魔法を展開すれば可能だけれどこの後に魔力を使うから出来るだけ温存していたいから使わなかったのだ。


「リン、解る範囲で教えてほしいのだけど、どのくらい迄近付いている?」

「……」


 リンは目を閉じて気配を辿っていた。


「距離にして2足半ですね…」


 1足は1000メートルだから、宿に配置られて来た者達が本体と合流してから追い掛けて来ているのだろう。


「1名…付かず離れずの距離を保ちながら着いてきていますから、十中八九その者が偵察者ですね」


「リンは着いてきている事に気付いていたの?」

「?…だって…ルー様は追い掛けて来る事を予測して、それを利用しようとしてますよね?」


 何でそこを指摘されるんだろう?と言う疑問が顔に出ているリン。


「まあね…リンが気付いていた事に驚いただけだよ」


 にっこりとルークは微笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る