第17話薬草の作り方part2

 ただ近付き触れば良いだけだと解っている。何なら、手で少し触れるだけでもきっと事が足りるだろう。

 解っているのに……心と身体は裏腹でつい抱き付いてしまっている自分に、言い訳何てもう出来る筈もなかった。


 きゅっと抱きついた汗ばんだ自分の物とは違う硬い背中が心地好い。

 心なしかルーク様も機嫌が良い様に思う。

 でも、身分と言う何より大きな壁があるから、私のこの思いは地中深く埋めてしまうがいい。

 きっと良い。


「……リン。……有り難う」


「……いえ、私は何もしてませんから……」


 これは何に対しての有り難うだったのだろうか?

 薬の様に症状を軽くすること?

 それとも……。

 やめよう。止めよう。初めて産まれた感情は忘れ……られないかも知れないから。

 せめて……育ててはいけない。


 何時までそうしていただろう。

 長いようで、短いようで、感覚が鈍り解らなくなってしまっている。

 ルーク様の作業は何れくらい進んだだろう。

 大きな背中に抱きついているせいで、何も見えない。

 離れて覗いて見ようか?

 でも…自分からは離したくない。

 そんなリンの気配を察したかのようにルークは自身の体にに回されたリンの手を自分の手で覆い握りながら白状した。



「……リン。……ごめんね。……少前に作業は終わっていたのだけれど、それを伝えるとリンが離れちゃうから黙ってた」


「!!!…なっ!!」


 怒る筋合い何て無い筈なのに、同じ気持ちだったのか考えると落ち着かなくなってしまう。


「……こんな役得がなくちゃ抱きついて何てくれないでしょう?」


「だからって!!」


「身体が辛かったのも本当だよ。……リンが熱くなった体を沈めてくれたから、落ち着いたけどね…」


 手を握られているから離れる事も出来ず、せめて後頭部だけでも睨んでやろうと顔を上げた。

 すると同じタイミングでルークは後ろを振り返り、その顔に優しい笑顔を浮かべたのだ。


「!!!………?!」


 悔しい悔しい悔しい悔しい!!!

 どうしたって相手が上手だ。


 その後ゆっくりと手を離す際に指先をチュッと口付けてから、やっとのことでリンの手が解放されたのだった。


「……これから、この薬を王都迄届けるんですか?」


 消して話をそらしたいだけではない。


「そうだよ。……と言っても城にでは無いけどね」


「どういう事ですか?」


「体に良い場所、王都でも選んで療養しているからね」


 ルーク様が複雑な顔をしているのは何故なのか?この時のリンには解らなかったが、薬を届けるのは、間違い無いらしい。


「サトリ君が届けるのですか?」


「いや、サトリはこの要塞を守る要だからね。……今回は俺が届けるよ、勿論リンも一緒に行くんだよ?」


 部屋の片付けを手伝い(手を出して良いものと悪いものが解らない為、私がやります!!と率先して動けないのだ)薬をショルダーバックに摘めて持つと部屋を後にして、暗い洞窟をお風呂場迄戻った二人は、ジン夫妻に挨拶をして急ぎ公爵家の馬車に乗り込んだ。


 この地に来たときよりもかなり飛ばしているのに、車輪がブレ無いのは流石公爵家の馬車と言うべきか、それとも馭者が優秀なのか?……って、どっちともだろうな。

 だって、馭者のおじさんは村に居た時のおじさん達と同じ雰囲気だもの。

 絶対に只者じゃないのだけはリンにも解った。

 乗り心地は悪くない。

 馬車だと考えるならスピードだってある方だ。

 でも急いでいるなら馬にすべきでは無かろうか?リンが馬で単独跳ばした方が断然速いのだが。

 ルーク様は公爵様だけれど、王太子様の一大事とあってはそれも霞むんじゃないかと思うのだが、そもそもが権力と言うものと無縁だったリンには正解が解らなかった。


 ◇◇◇

 どれ程走った事だろう?

 2度ほど馬を変えた。と言っても、公爵家の馬はみな優秀なので、疲れさせない、潰さない為に大事をとって変えただけなのだが。

 頑張って走ってくれた馬達は休ませた後、公爵領迄送り届けて貰う事になっている。

 馬は貴重で高価だから…も有るだろうが、ルーク様が気に入っている馬達なのが一番の要因だろう。

 あれでルーク様は動物好きらしい。

 馬の他に鷹や犬まで飼っていて、どの子もルーク様にとても懐いている。

(因みに余談だが、何故か彼らは私にも懐いてくれたものだから可愛くて仕方がない)

 程なくして王都の門を潜った。

 本来なら何処よりも厳しい筈の検問を抜けたのだから、王都の門で間違いは無い筈なのだが、簡単過ぎて自信が無くなってしまう。

 そう感じる程、ルーク様だと解ると楽々顔パスなのは、ルーク様の位の高さを今更ながらに思い知らされてしまった。

 いや、解っていたけれども実際に体感するのとしないのとでは受け取りかたが変わって来てしまうのだ。

 それにしても……。


「ルーク様、城に行くなら真っ直ぐで、今確かに左に曲がりましたよね?…その方角だと川沿いに向かってしまうのですが」


「そうだよ…ただこれから先は極秘だからね?」


 ルーク様は人差し指で、しーっと内緒だよ?ポーズをして見せた。

 口から砂糖が出てきそうなゼスチャーだが、美形なら様になってしまうのだからやるせない。

 極秘なら、私はお留守番していても良かったのに、とは大人な私は言わないでおいた。


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