第15話リンの能力
どの面下げてと言われてももう一度戻ると決めた。
私が戻らなければ、きっと彼は苦痛に苛まれる日々を送ってきっと、その日々に……絶望するのだろう。
そう決めて屋敷まで戻ると丁度門からルーク様が出てくるところだった。
リンはどういう顔をすれば良いのか解らなくて無言になる。
ルーク様はリンが担いでる男に驚きながらも、リンが無事なことにホッとした表情を見せた。
「衛兵、この男を連れていき尋問して黒幕を吐かせろ」
驚くことにルーク様はリンから軽く男を取りあげると衛兵に手渡した。
(驚いた。………暗殺者なだけあって筋肉が発達しているから結構重いのに、ルーク様は軽々しく持ち上げた)←自分の事は棚に上げている。
ただの顔が良いだけの優男では無かったのか!?
リンが驚いていると、ルーク様は少し怒った表情をしながらリンに話しかけてきた。
「リン、無茶はするな、君は女の子何だ。顔や体に傷を負う事や、口にしたくもないが汚される事だってあったかも知れない。………それでも生きていてくれればまだいい。殺される事だってあったんだぞ!?」
こんなん剣幕を見せるルーク様は初めて見た。何時だって笑っていてそれ以外の表情はあまり見せなかったのだから。
「ごめんなさい…」
本来なら、『申し訳御座いません』なのだろうが、素直な謝罪以外リンは取り繕う言葉が出てこなかった。
「あー、怒っている訳じゃないんだ。……ただ危ない真似だけはしないで欲しい。心臓が幾つあっても足りない」
「善処します……」
リンは出来ない約束はしない主義だ。
かといって出来ません、も違うし。なら、努力するに留めておいた方が良いだろう。
「善処します、か。リンらしいね。その場を取り繕う嘘の言葉もない……」
その言葉は、リンを責めている訳でも、否定している訳でもなくて、ただ異性として好感を持てると言う意味だと理解するには、リンは恋愛に対して素人だった。
「申し訳御座いません」
でも本音を殺す生き方が良い生き方だとはどうしても思えない。
「……二人きりの時は、敬語はやめて」
「……何故ですか?」
「俺がリンに距離を置かれている様で……嫌なんだ」
何を言っているのだこの人は!?
物理的距離こそ無いが、階級距離と言う何よりも無情な距離が大きな運河となり二人の間を流れている事くらい、子供だって解る事なのに。
「無理です……私が側にいることで、ルーク様の病が改善するなら……お側にもいますが、それ以上は無理です」
また……距離感を勘違いをしてしまうから。
それは小川の様に細い川で、簡単に飛び越えられると勘違いしてしまう。
実際には海ほどに広くて果てしないのに。
「……命令でも?」
そんなに苦痛に歪んだ顔をする位なら言わなきゃ良いのに。
「……そんな命令をするなら……私はお屋敷を辞めされて頂く事になります」
「……悪かった。……撤回するから、側にいてくれ」
一度頑なになった女の子の心を簡単に解きほぐす事が出来ないのはルークにも解っていた。
徐々に近付ければ良いと、安易に思っていたのも事実だ。
だから全部は言わなかったし、今回の事も出来れば時と場所を選んで伝えたかったが、この地で勃発している状況がルークに事実を伝える様に急かした。
だから………話さざる得なかった。
「解りました……」
「リン、食事を取ってから薬を作り始めるから側にいて欲しい。……きっと作り終わる頃には、先程の男の尋問も終わっているだろうから」
「さっきの衛兵の方が尋問するんですか?」
「違うよ。……尋問をするのはジンだ」
「ジンさんですか!?」
リンは心底驚いた。
あんなに優しそうなおじいちゃんが、実はヘビーな裏の顔を持っていただなんて。
「あんなに温厚に見えて、自白を促す事には1番長けている。……ジンは怖いよ?」
ルーク様はリンの考えている事などお見通しだったようだ。
「……人間不振になりそうです……」
「リンは表だけの人だからね……」
「……単純って言うことでしょうか?」
どうしたって斜めな見方しか今はできない。
「誉めているんだよ……貴族の世界は裏だらけだからね」
「……」
事実、そうなのだろう。腹の探りあいしか出来ない付き合い何て、リンなら絶対に御免だ。
悪くもない体を悪くしそうだ。
◇◇◇
リンはルーク様に連れられて、昨夜に入ったお風呂に来ていた。
「薬を作ると言ってませんでしたか?」
だからリンはルークに聞いてしまう。
だっておかしいもの。
「そうだよ……ここからまだ地下に行くけどね」
何だか不気味で物騒な所でしか作れない薬を飲むしかしょうがない王太子とはどんな人なのだろうか?
リンは心の中でなら、不敬には当たらないと、病弱な王太子に敬意を込めるのを忘れていた。
「そうだね………この薬草はね、珍しくて、太陽の光が駄目なんだ」
尚をも歩きながらも説明してくれるところは、ルーク様は律儀だったりする。
「本当に珍しいですね……」
リンは素直に感想を述べた。
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