第14話この土地に来た目的とはpart3
「だって、ただの何処にでもある噂話ですよ!?」
誰だって言ったりする範囲の噂話だった。
しかも、リンは誰かが仕事中に話をしていたのが聞こえてきただけ。
それだけの何気ない会話の筈だったのだ。
「リン……その話、国民は知らないんだ。…今は影武者が表に出てるから、王太子殿下のご病気の事を知るはずが無いんだよね。厳戒体制を強いてるから何処からか洩れるとは考えにくいし、極刑に値するから…リンが暮らしていた場所は一度調査しなくてはいけないかもね」
物騒な事を言うから、驚きを隠せなかった。
噂好きでも、消して悪い人たちでは無かったから。
「えっ!?そんなにですか!?」
「この国の跡取りの話だよ?…小さな内容だと思うかい?」
ルーク様は、その間も私の手は離さなかった。
「……思いません……」
普通の村で、普通の、いや普通より貧しい村人の集まりのような場所だったと思う。
確かに噂話の様な事は多かったが、おかしな所何て無かったのに。
リンはあの村で生まれて育ち、あの村しか知らなかった。
だから、気付かなかったのだ、あの村の異様性に。…その後は公爵家という、また特殊な環境だから疑問にも思わなかった。
「まあ、それは今は措いとくとして、この土地の事と、俺の事は理解してくれたかな?」
「この土地の事は理解しましたが、話の内容は理解できましたが、ルーク様の事は解りません」
自分の事を言っている様で肝心な事には一切触れていない気がする。
例えば、何故その力がルーク様に有るのか?、とか。
わかってる、私に説明する必要何てない立場にルーク様はいることも。
「今すぐ、総てを納得してくれ、何てそんな事を言うつもりはない。…ただ、リンには解っていて欲しいという俺の我儘だ」
「我儘だって解ってるんですね、随分と自分勝手で、私の事を考えている様で全然考えていない、上位者の考えですよね。…まあ、最もルーク様にはそれだけの権力が有るのでしょうけど」
「…リン」
嫌味な言い方だって解ってた。
ルーク様は、他の貴族よりきっと優しいし、まともなんだとも、理解していた。
でも……ルーク様は私が私だから必要なんじゃ無くて…使える道具だから必要なんだってことが自分で考えているよりずっと、ショックだった。
勿論、運命何て信じている訳じゃないけど、それでも特別何だと自惚れが有ったのは…きっと事実だ。
利用されていただけだなんて………知りたくなかった。
何で私、こんなに傷ついているの?
何て自分に問い掛けなくても答えは解っていた。
本当なら、こんなことで怒っているのだって私の立場では我儘なのだろう。
でも………生まれて初めての感情が自分の感情の全てを支配していて、止められない位に加速させた。
「今日はルーク様の顔を見たくないので、違う場所で休みます」
不敬と言われても、もう止められない。
「リン、俺が嫌なのは解るけど、側にいてくれないか?」
「絶対に嫌です!」
手を振り切って、私はそのまま部屋を飛び出した。
ルーク様の私を呼ぶ声は聞こえてきたけれど、でもあのまま、雲の上の人が余りに近すぎて、自分を想ってくれていたなんてとんだ勘違い………惨めなまま、あの場所にいることだけは出来なかった。
勢いのまま、庭の外迄出てきたところで仕事を放棄してしまった事への罪悪感が足を止めさせた。
怒るのは筋違い。
私は使用人なのだから、雇い主としてのルーク様は少なくとも嫌な人ではない。
私の中の感情が、いつの間にか勝手にルーク様を内側に入れてしまっていただけなのだから。
今ならまだ、雇い主と使用人として心の距離を取ることが出来る筈。
「はあ、戻ろう。…戻って謝罪して、それからの事は後から考えよう」
駄目なら駄目で、次の仕事先を考えなければいけない。
自分の事は自分で守らなきゃ、もう私には家族はいないのだから。
リンは屋敷に戻ろうと踵を返すと気配を感じて咄嗟に横に飛んだ。
考えて行った行動じゃない。脊髄が反射したのだ。
リンがいた場所には無数の矢が突き刺さっている。
「何なの…これ?」
どうして自分を狙って来るのか解らなかった。だって一介の使用人だ。
メリットがない。それともルーク様への警告に殺され掛けたのだろうか?
動きやすい服装をしていて良かった。
敵は………まだいる。
このまま全力で走って庭にまで入れば何とかなるだろうか?
いや、敵を引き連れて戻るのは、屋敷の中の人達迄危険にさらすことにはならないだろうか?
敵は何人いるだろう?
複数人なのは確かだが、相手もプロだ。
そこまではリンでも読めなかった。
リンは懐に入れておいた守り刀を手に取ると一番殺気を出している暗殺者に向けて走り出した。
相手もリンに向かって矢を放つ。
それを刀で弾き、勢いを殺さず木ノ上迄駆け上がり間合いを積めて、相手の首筋に刃を向けた。
相手は後ろに避けようとするがバランス崩して落下した。
リンは追いかけて飛び降り、そのまま相手の腹めがけ、体重と重力をかけて膝を入れる。
「ぐはっ!!」
相手はそのまま気絶してしまった。
「後の奴らは逃げたわね…」
気配は消えた。相手の数が測れない以上、深追いは厳禁だろう。
それにしても、やはりあの村は特種だったのだろう。
村人相手にしか、組手をしたことが無かったから、自分の実力は解って無かったが、どうやら通じる様だ。
その教育をそれとは知らぬまま施され、護身術と思い込みマスターしていたのは、護身術の域を容易に越えた物だった。
「まあ、役にはたったし無駄じゃ無かったけどね」
それを教えられるだけの村の戦闘スキルは、きっと異常だったと、指摘された今なら解る。
まあ、指摘されたのは情報収集能力についてだが。
少し前…同僚のメイドが階段から落ちそうになっているところを助けた事があった。
助けたリンを見てお礼は言ってくれたが、とても驚いて興奮していたのを思い出した。
『落ちた私より、先に下までついて抱き留めるって、リンは何者!?普通は出来ないわよ!?』
何を大袈裟な、と思っていたら大袈裟ではなくて、普通と思っていた事が普通じゃ無かったのだろう。
「私……常識から学ばないといけないみたいね」
無論教養の部分ではなく、普通の人の強さと能力的な部分でだ。
「まあいいや、戻ろう……」
リンは未だ延びている黒付く目の男を両手両足をネクタイとベルトで縛り上げると、肩に担いで屋敷へと戻る為、足を動かした。
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