第8話ハード………なハート?
お互いに一歩も引かないままに、夕食だと冷戦状態のまま、私とルーク様は食卓に向かう。
勿論私は執事服。まあ動きやすいから結構気に入っているけれど。
胸も小さいから、多少厚目の肌着を着ていればバレないのも良い。
そこは、全然OKだ。…むしろワンピースを着て掃除をする意味が解んない。
問題は、私の役割だ。
人に必要とされて初めて、自分の立ち位置が解る。…今の私は、役立たず以外の何者でもない、そんな状態でいるのが自分的に許せないだけ。
少なくとも、公爵家にいれば少しは成長出来た筈なのに。
ここでは畑違い過ぎて頭が追い付かない。
そもそもが、ルーク様は仕事もしない引きこもり、血筋以外役立たず青年では無かったのか?……と言う疑問もある。
通された広間には長くてデカイテーブルが置かれている。そのテーブルにはこれまた白くてデカいテーブルクロスが敷かれ、中央には花が飾られている。
頭上にはシャンデリア。まあ、それを見ても、私は掃除するのが大変そう、位しか感想が無いけれど。
入室すると、そこにはこの屋敷を管理する老夫妻が既に待っていた。
私はルーク様の椅子を引き、………こうとしたら止められた。
食事のサーブも要らないと言われ、やることが無いので、側に立っている事にした。
だって、他に何をすれば良いのか解らないから。
それにしても、もう一人分席が用意されて要るが、何方がいらっしゃるのだろうか?
………ルーク様の女か?はたまた、公爵家と繋がりを持ちたいお貴族様か?
まあ、どちらでも構わないが。
にしても、前なら解るけど、後と言うことは……。
前者なら、私の部屋を是非別に用意して頂きたい。…何故なら、行為中ずっと同じ部屋に要るなんて拷問以外の何者でも無いからだ。
経験の無い私には、刺激が強すぎる。
そんな事を考えながら突っ立っているとルーク様に話しかけられた。
「…リン、何をしてるの?」
「何とは?」
質問の意図が解らない。
私はまた間違えたのだろうか?
だって、料理を運んでくれる人はいるし、私が料理する訳でも無いじゃない?
後は、何をすれば良いのだろうか?
「リンも一緒に食べるんでしょう?」
「食べません」
アホなの?
「せっかく、リンの席も俺の隣に用意させたのだから、座って?」
私の席かい!!
「座りません、私は使用人、ルーク様はご主人様です。同じ席に着くなどもっての他です」
よし!!…私の方が正論の筈だ。
「一人で食事しても楽しく無いでしょう?」
それは同感だけど、私にどうしろって言うのよ?
「それなら、御夫妻と一緒に食事されたら如何です?」
ご夫妻とは、勿論感じのよい管理人のご夫妻の事だ。
暫し考える素振りを見せたルーク様だったが。
「解った、ジン達が一緒ならリンも一緒に食べるんだね?」
は?…そんな事は一言も言っていないけど!?
ルーク様は私が止める間もなく、指示を出して、あっという間に、プラス2席を用意させた。私の席だと言っている場所は、ルーク様の隣。
ご夫妻は目の前に。
私は、これ以上断る言葉のボキャブラリーが無かった為、渋々従った。
「……私はまだ、テーブルマナーを全てマスターしていませんよ?」
元々が平民だ。…母が生きていた時は色々作法にうるさく仕付けられたけど、それは貴族のマナーではない筈だ。
「大丈夫、マナー何て気にする事はないよ?」
「気にします。…マナーは必要だから、皆様は覚えるし、その為に有るんですよね?」
なら、知らなくていい、は無いだろう。
「……リンの所作は元々綺麗だから気にする事はないと思うけど、リンが気にするなら、俺が教えるよ」
使用人皆と一緒の方が絶対に気楽で美味しいのに、とは言わないでおいた。
明確なノーを言えない段階で、非は私にもあるからだ。…別にルーク様はそこまで話の解らない方ではない。
なら、せっかくなら私だって覚えたい。
きっと、これから先、一人で生きていくにも知識は役に立つ筈。
目の前にお手本の鏡、公爵家の当主様が要るのだから存分に勉強しよう。
「お願いします」
スポ根宜しく、私は戦闘場所(テーブルに)に着席したのだった。
◇◇◇
一つ一つ絶妙なタイミングでアドバイスをくれるルーク様。
本当にこの方はアホな引きこもりなのだろうか?
少なくとも頭の回転は頗る早い。
自分が思っているより、美味しく食事が出来、ご夫妻との会話も弾んだ。
悪いことだけではないんだな、と少しだけ見直したけれど、誰を、とは言わないでおく。
食事を終えた私はジンさんに教えてもらった事実に驚いてしまった。
何と、この屋敷には天然の温泉を引いたお風呂が有るというではないか!!…是非とも入りたい。…入りたいけど、私は使用人。
うーん、ダメもとで頼んでみようかな?
臨時ボーナス的なあれで。
「リン、温泉に入りに行こうか?」
やったー、と声を上げそうになったけど、その瞬間、次のルーク様の爆弾発言に声を失ってしまった。
「せっかくだから、リンに背中を流して欲しいしね?」
やっぱり………この人はアホなの?
私の感動返せ!!
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